財産の遺留分をめぐる「争族」を回避したいです。「夫婦相互遺言」という方法があると聞いたのですが、どのようなものですか?

配信日: 2025.03.21

この記事は約 3 分で読めます。
財産の遺留分をめぐる「争族」を回避したいです。「夫婦相互遺言」という方法があると聞いたのですが、どのようなものですか?
子がいない50代後半のAさん夫婦。これまで順調に資産形成をしてきて、つつましく生活すれば老後の心配はなく少し安心していますが、その財産はすべて配偶者に渡したいということです。
 
調べたところ、もし遺言を書かなければ民法で定められた相続分に従って相続するか(法定相続)、相続人全員による話し合い(遺産分割協議)が必要であることが分かりました。
 
しかし、Aさん夫婦はそれぞれの兄弟姉妹と疎遠、かつそれほど仲がよくないとのこと。そのようななかでさらに調べたところ「夫婦相互遺言」というものを知ったそうです。
 
今回は、「夫婦相互遺言」について見ていきます。
田久保誠

執筆者:田久保誠(たくぼ まこと)

田久保誠行政書士事務所代表

CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、特定行政書士、認定経営革新等支援機関、宅地建物取引士、2級知的財産管理技能士、著作権相談員

行政書士生活相談センター等の相談員として、相続などの相談業務や会社設立、許認可・補助金申請業務を中心に活動している。「クライアントと同じ目線で一歩先を行く提案」をモットーにしている。

もし、遺言書がなかったら……

Aさん夫婦に遺言書がなければ、法定相続分で分割します。いろいろなケースが考えられますが、A:親が存命の場合、B:親が死亡し兄弟姉妹がいる場合に分けて考えると、以下のとおりになります。

A:配偶者3分の2、親3分の1
B:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1

それぞれ複数人いる場合は、それぞれの割合をその人数で分けます。
 
例:兄弟姉妹が2人いた場合は1人当たり8分の1、両親とも存命の場合はそれぞれ6分の1
 
もちろん、これとは別に遺産分割協議を行い、上記以外の割合で相続もできます。よって、Aさん夫婦のようなケースでは遺言書を残さなかった場合は、法定相続分で兄弟姉妹と分ける、あるいは遺産分割協議の話し合いをしたうえで分けることになります。
 
さらに、自宅のような物理的に分割できない資産に関しては共有となり、預金を下ろす場合も配偶者1人でできないことになります。また、自宅を共有しない場合には、預貯金のなかから兄弟姉妹分の遺産分を渡さなければいけませんし、現金がなければ最悪自宅の売却で渡さなければならなくなるかもしれません。
 

夫婦相互遺言とは

夫婦相互遺言とは、夫婦がお互いに「自分が死んだら、全財産を相手(配偶者)に相続させる」という内容の遺言書を作成することです。
 
特に、法定相続人に兄弟姉妹がいる場合は遺留分がありませんので、この遺言を作成することによって全財産を配偶者に相続させることができます。こうすることで、上記のような自宅の共有や最悪売却等をしなくて済みます。
 

【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断

作成時の注意点は?

夫婦相互遺言という名称ですが、民法975条では「遺言は、2人以上の者が同一の証書でこれをすることができない」と定められていますので、夫婦が同じ紙に遺言を書くことはできません。もし同じ紙に遺言を書いた場合、その遺言は無効になります。また、それ以外のルールも他の遺言の書き方と同じです。
 
問題は、一方が亡くなった後、残された配偶者の資産がどうなるかを考えることです。その場合は、後から亡くなった夫婦の兄弟姉妹や甥姪が相続人となり、遺産を分けます。
 
そのまま誰が遺産をもらっても構わないのであれば問題ありませんが、夫婦で築いた財産を特定の人に引き継いでもらいたいのであれば、その内容を予備的遺言として、それぞれの遺言のなかに書いておかなければなりません。
 
ちなみに予備的遺言とは、自分より前に相手(相続人)が死亡した場合、遺言の該当部分は無効となってしまうので、あらかじめその財産を誰に相続させるのかを遺言内で書いておくことです。このケース以外で、もし相続人が相続放棄をする可能性がある場合にも使える方法です。
 
では、この場合の予備的遺言ですが、例として、特定の親族(甥や姪等)に老後(最期)の世話や葬儀をお願いすることを前提にその人物に相続させる旨を記載します。
 
もちろん、一方が亡くなった後に再度遺言を作成するのもよいのですが、その場合に遺言を書く判断能力がある状態かどうかも分かりませんので、夫婦とも元気なうちに予備的遺言まで踏み込んで作成することをお勧めします。
 

残された配偶者にできるかぎり負担をかけないために

Aさん夫婦の場合にかぎらず、相続において「遺言」の有無が、その後の遺産相続の手続きに大きな影響を与えます。配偶者が亡くなった状態でさまざまな手続きや話し合いを行うことは、精神的に非常にきついものがあります。残された配偶者の負担が少しでも軽くなるために、お互いが元気でいる間に作成することはよいことではないでしょうか。
 

出典

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法
 
執筆者:田久保誠
田久保誠行政書士事務所代表

【PR】
夫の家事への不安に関するアンケート FF_お金にまつわる悩み・疑問 ライターさん募集
FFジャックバナー_ヘッダー用 【PR】
FFジャックバナー_フッダー用 【PR】