2人兄弟の長男です。父の遺言に「自宅は長男に、預金は次男に渡す」とありましたが、実家は田舎にあるので正直いりません。遺言に従うしかないですか?
配信日: 2025.05.09

これは、ある50代の会社員男性が体験したお父さまの遺言です。昔ながらの考え方で「家は長男が継ぐもの」という思いからの内容でしたが、本人はすでに東京に持ち家があり、田舎の実家を引き継ぐつもりはまったくありませんでした。
しかし、そうはいっても親の遺言。兄として、引き受けなければならないのだろうか……彼はひとり悩んでいます。解決策はあるのでしょうか。

執筆者:稲場晃美(いなば てるみ)
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
遺言は絶対なのか?
「親の遺言には従うしかない」そんなふうに思っている方も多いかもしれません。
しかし実は、相続人全員の合意があれば、遺言と違う形で遺産を分けることも可能です。この男性も、思い切って弟に相談してみたそうです。
「実家、おまえのほうが近いし、もしよかったら引き取ってくれないか? 」
すると、地方で暮らしていた弟はこう答えたそうです。
「実は、実家をリフォームして住もうかなって考えていたんだ。もらっていいなら、ありがたいよ」
お互いの希望を率直に話し合ったことで、遺言をもとにしつつも納得のいく分け方ができました。“もめない相続”は、こうした本音の対話から生まれるのです。
放っておけない「空き家」の現実
このように兄弟でうまく話せればいいのですが、実際には「誰も住まないまま実家が空き家になる」ケースも少なくありません。
総務省の調査によると、2023年時点で全国の空き家は約900万戸。親の死後、相続人が誰も住まずに放置されている家が増えているのです。空き家は傷みやすく、防災・防犯のリスクも高まります。さらに、「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇が外れ、維持費の負担も増えることに。
つまり、「実家をどうするか?」というテーマは、もはや家族内の問題にとどまらず、地域社会全体の課題にもつながっているのです。
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「親と話すのが気まずい……」そんな時は?
とはいえ、実家や相続の話を「まだ元気な親」に切り出すのは、なかなか気が重いですよね。親にとっては自分の終わりを想像させる話にもなりかねませんし、「縁起でもない」と言われることもあるかもしれません。
そんなときは、無理に結論を出す必要はありません。まずは「気になっている」という思いを、きっかけのひと言として伝えるだけでも十分です。
・この前テレビで相続の話をやっていたんだけど、ちょっと気になって……
・○○さんの家が空き家になっちゃって、困っているって言っていたよ
・実家って、将来どうするつもりなの?
ポイントは、“口出し”ではなく“手伝い”の姿勢を見せること。
「お父さんの考えを教えてくれると安心するな」
「何かメモに残してもらえるだけでもありがたいんだけど」
そんな声かけからなら、親も案外すっと受け入れてくれることがあります。
家族の未来のために、「ちょっと話してみる」ことから
親が元気なうちは、実家のことも相続のこともつい先延ばしにしがちです。しかし、“何かあってから”では、話し合う余裕もなくなるのが現実です。早めにきちんと向き合っておくことで、親の意思も、兄弟姉妹それぞれの事情も、ゆっくり整理できます。そして何より「もめないための準備」は、思いやりのある対話から始まります。
「話しにくいけど、もめたくない」
もしそんな気持ちが少しでもあるなら、今日から、まずはひと言だけでも親や兄弟姉妹に声をかけてみてください。
出典
総務省 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果
執筆者:稲場晃美
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士