一人暮らしの母が亡くなって実家が空き家に。売るor貸す…… 思い入れのある実家なので決断できません。どちらがいいですか?
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
目次
「売却」か「賃貸」か。出口を分ける3つの選択肢
親を亡くした悲しみのなかで、実家の片付けや手続きに追われる日々。「誰も住まなくなった実家を、どうしたらいいだろう」…… いわゆる「実家じまい」に悩んでいる方へ、まずは選択肢を一緒に整理してみましょう。
1つ目は、「売却」です。
早期に現金化でき、維持費や将来の増税リスクから解放されます。相続から3年以内に売却すれば、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、譲渡所得から最大3000万円を控除できる可能性があります。ただし、適用要件は複雑なため、売却前に必ず税理士または税務署にご確認ください。
2つ目は、「普通賃貸」です。
収益を得つつ資産を保持できますが、多額の初期投資(リフォーム代)や空室リスク、経営者としての管理責任が伴います。
3つ目は、「定期借家」です。
期間を限定して貸し出すため、将来自分が住む、あるいは売却を再考するまでの「時間を稼ぐ」ための有効な手段となります。
どの道が合理的かは、立地や築年数、市場の状況を比べることで見えてきます。しかし、こうした選択肢を知っても、なかなか決断できないのが実家相続の現実かと思われます。それは、あなたの優柔不断ではなく、家に「まだ決められない理由」が残っているからではないでしょうか。
なぜ「比較」をしても、決断の時計は止まったままなのか
情報がそろっているのに判断できない理由は、知識不足ではなく、家の「中身」にあります。不動産と相続の現場で痛感するのは、生活の痕跡が残り、特に「祭祀財産(仏壇・位牌・墓など)」が鎮座している実家は、心理的に「資産」として割り切ることが極めて難しいという点です。
お母さまが大切にしていた遺品や、精神的な支柱である仏壇。これらが残る家は、まだ「不動産」ではなく「故人とのつながりの場」です。
この状態で売却や賃貸の損得を冷静に考えることは、心に強い抵抗や罪悪感を生みます。「まだ決められない」のは当然のこと。まずはこの感情のブレーキを外すことから、一緒に始めてみませんか?
「実家じまい」は、片付けてから決めるのではなく「片付けるから決まる」
停滞を打破するには、出口の議論をいったん横に置き、物理的なリセットを先行させることが肝要です。具体的には、以下の2つのステップを推奨します。
まず、「祭祀財産の整理方針」を決めます。民法上、仏壇や位牌等は相続財産とは別に承継者を定めることができます(民法897条)。
菩提寺や親族と「誰がどう引き継ぐか」を話し合い、方針を決めてみてください。その過程で、家は「故人をしのぶ場」から「これからどう生かすかを考える場」へと、少しずつ姿を変えていきます。
次に、「プロによる遺品整理」の活用です。膨大な荷物を前に途方に暮れる現状を、専門業者の力でリセットし、空間を空っぽにします。
床が見え、風が通るようになったリビングに立ったとき、不思議なことに「ああ、この家はこうしたい」という本音が自然と顔を出します。片付けることが、あなた自身の答えを連れてきてくれるのです。
納得の出口へ導く「相談相手」の選び方
いざ動き出すとき、「誰に相談するか」が大切です。不動産会社は売却を、施工会社はリノベーションを勧めるなど、相談先によって提案は変わります。しかし実家の問題は、単なる不動産の処分ではなく、家族それぞれの思いや、誰が費用を担うかに関わる繊細な問題です。
必要なのは、特定の方向に誘導せず、片付けから活用方法まで一緒に考えてくれる伴走者です。税務や不動産に詳しく、「誰が管理を担うか、費用や責任をどう分けるか」といった家族の話し合いを、一緒に整理してくれる専門家を選びましょう。
決断できない自分を責める必要はありません。まずは誰かに胸の内を話してみること。それだけで、止まっていた時間が動き始めることもあります。一歩、踏み出してみませんか?
出典
国税庁 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
デジタル庁 e-Gov 法令検索 民法 (祭祀に関する権利の承継) 第八百九十七条
執筆者 : 稲場晃美
お金と不動産相続のコンシェルジュ
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