会社経営をしており、自社株の評価額は「数億円」と言われています。長男に経営は継がせたい一方、他の子にも相続分を確保したいのですが、信託でうまくいくでしょうか?
経営権の承継と株式の相続を考える必要があります。近年、信託を利用した事業承継が注目されており、関心を持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、「信託とは何か?」「事業承継・相続対策に信託をどう活用すればいいか?」について解説します。事業承継だけでなく、家族信託に興味がある方も参考になると思われますので、ぜひ最後までお読みください。
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
信託とは何か?
信託とは、自分の財産を信頼できる人に託し、自分や誰かのために運用・管理してもらう制度です。信託における用語には、以下のようなものがあります。
・信託財産:信託の対象となる財産
・委託者:信託をする人
・受託者:信託を引き受ける人
・受益者:受益権を持つ人
・受益権:財産から生じる利益を得る権利
例えば、父親が保有するアパートを、子どもが管理・運営し、父親が収入を得るとする場合、信託財産はアパート、委託者・受益者は父親、受託者は子どもとなります。一般に、受託者を委託者の家族とする信託を「家族信託」といいます。
信託の方法には、委託者と受託者の契約による「信託契約」、遺言により信託を行う「遺言信託」、自己を受託者とする「自己信託」の3種類があります。最も一般的な信託は信託契約ですので、以下では主に信託契約について解説します。
なお、銀行などで「遺言信託」というサービスを取り扱っていますが、本記事でいう遺言信託は法律上の用語であり、内容が異なりますので注意が必要です。信託契約をする際、契約書に記載すべき主な内容は、以下のとおりです。
・信託の目的
・信託財産
・委託者、受託者、受益者
・第二受託者、第二受益者
・信託の終了事由
・信託期間終了後に残っている財産(残余財産)を取得する人
「第二受託者」は、受託者が亡くなったときなどに、財産の管理を引き継ぐ人です。「第二受益者」は、受益者の次に利益を受け取る権利のある人です。信託の終了事由や残余財産について、法律に規定はありますが(信託法第163条、第164条、第182条)、契約書に記載しておくといいでしょう。
事業承継・相続対策に信託をどう活用すればいいか?
本事例のように現経営者である父親が後継者を長男としたい場合、通常、長男に経営を継がせるには、株式を長男に譲渡します。しかし、長男のほかにも相続人がおり、かつ株式の評価額が多額となる場合、相続人間で争いが起こる可能性があります。
そこで、信託を利用して相続人間の利害の調整を図ります。例えば、信託財産を株式、委託者・受益者を父親、受託者を長男、第二受益者を相続人全員(長男を含む)とする信託契約を結びます。
これにより、形式的には株式の所有権が長男に移るため、長男が経営権(議決権)を取得します。父親は受益者として、配当金などの利益を得ることができます。
株式を信託財産とするため、その旨を株主名簿に記載または記録しておきます。これにより、当該株式が信託財産であることを株式会社や第三者に主張することができます(会社法第154条の2第1項)。
ところで、父親が死亡すると相続が発生しますが、信託において相続の対象となるのは信託財産ではなく受益権です(相続税法第9条の2第2項)。受益権の相続対策としては、遺言を作成する、または父親の死後に遺産分割協議を行うことが考えられます。
しかし、信託契約を結ぶのであれば、相続人全員を第二受益者(第一受益者は父親)に指定しておくことで受益権を承継させることもできます。
なお、委託者の死亡について、遺言信託の場合は「委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しない」(信託法第147条)と規定されていますが、信託契約の場合は規定がないため、遺言信託の反対解釈から「委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継する」と考えられます。
このため、父親の死後、委託者の地位が相続人に承継される形で信託契約は継続します。
まとめ
そこで本記事では、「信託とは何か?」「事業承継・相続対策に信託をどう活用すればいいか?」について解説しました。まとめると、以下のとおりです。
・信託とは、自分の財産を信頼できる人に託し、自分や誰かのために運用・管理してもらう制度であり、「信託財産」「委託者」「受託者」「受益者」で構成される
・信託の方法には「信託契約」「遺言信託」「自己信託」の3種類があるが、信託契約が最も一般的である
・事業承継・相続対策に信託を活用する一例として、信託契約で、信託財産を株式、委託者・受益者を現経営者、受託者を後継者、第二受益者を相続人とすることが考えられる
インターネットで「信託」を検索すると、さまざまな「信託」が見つかります。しかし、ご自身の状況に合う事例を見つけるのは難しく、このため「信託は難しい」という印象を受けるかもしれません。
本記事では、信託に関する基本的なことを解説しました。信託の基本をご理解いただくことで、インターネット上で見かける事例への理解も進み、ご自身の事業承継や相続対策も取り組みやすくなるでしょう。本記事がお役に立てば幸いです。
出典
デジタル庁 e-Gov法令検索 信託法
デジタル庁 e-Gov法令検索 会社法
デジタル庁 e-Gov法令検索 相続税法
執筆者 : 中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
