「兄は長男で家を継ぐ立場だから遺産をすべて渡す。あなたは他の家に入ったのだから」と言う両親。夫の家に嫁ぐと、妹の私は遺産をもらえないの?
今回の相談は、「長男だから」「名前もお墓も守ってもらうから」「他の家に入ったのだから財産は相続させない」という親からの言葉にビックリしたケースです。「嫁に出たから相続権がない」と思わせるような、親の言葉に本当に従うべきなのでしょうか。本記事で、検討してみましょう。
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
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「長男だから相続できる。他の兄弟姉妹は放棄するべき!」という考え方は間違っている
法律上、兄弟姉妹は公平に相続する権利があります。戦前は、家督制度というものがありましたから、一家のあるじである「戸主」が亡くなると、長男しか相続ができませんでした。
その後、民法は改正されていますので、「他の家に嫁いでいるから、財産は相続させない」などの、冒頭のような言葉は明らかに間違いで、何の強制力もありません。
では、親がなぜ「長男に相続させたがるのか」を考えてみましょう。その理由として主なものは、親の老後の面倒をみてもらうためや、お墓を守ってもらうという理由が挙げられます。
ただし、実際に長男にすべての財産を相続させても、お墓を守るという義務が果たされるかは分かりませんし、相続発生後、長男にすべて相続させたことによる不満が爆発して、家庭裁判所の調停や裁判に発展するというリスクも見逃せません。法律が「公平」をうたっていても、その正しさが親に通じるとはかぎらないのです。
まずは、「今の法律ではこうなっているみたいだよ」などと一緒に、「家のことは、長男だけでなく、自分も担うことができる」ことを継続して伝えていくといいでしょう。親の世代にかぎらず、いきなり「あなたは間違っている」と言われることは、相手をより頑固にさせてしまうこともあり得るので、伝え方には注意したいものです。
「長男にすべて相続させる」という遺言書に対して、他の兄弟は物申すことはできないの?
繰り返しになりますが、法律上は、兄弟姉妹間の相続割合は公平です。たとえ、他家に嫁いでいても法定相続分は同じです。法定相続分と異なる割合を長男に相続させたいときには、「遺言書」が必要です。
時折、遺言書を書くことをすすめたときに、「子どもたちには普段から言っているから分かっている」「わざわざ書面にするなどしなくても長男に任せていたら大丈夫」など、根拠のない言葉で返されることがあります。この「大丈夫」という思い込みは、非常に危険です。
子どもからすると、親に言っても無駄だからとあきらめているケースもありますし、親の前では言えなくても、親が死亡したときに、相続を争う手段に移行するのも珍しくはないのです。
遺言書を書くことは大切ですが、遺言書に書かれたことが何でも実現できるわけではありません。
長男に多く相続させるのであれば、同居して老後の面倒をみてもらう、もしくはお墓を守って法事など祭祀承継も任せるという負担をお金に換算しているということを、しっかりと遺言書にも記載して、「なぜ、この相続割合なのか」を、相続人にしっかりと説明する手間をかけておくと、泥沼の争いになる事態も避けやすいでしょう。
もし、遺言書に、「長男にすべてを相続させる」と書かれていたら?
もし、親が遺言書に「すべての財産を長男に相続させる」と書いた場合、長男がすべて相続できるかというと、他の兄弟姉妹が「何も異議を申し立てないなら」という条件付きで、実現は可能です。
すべてを長男が相続してしまうと、当然、他の相続人の「遺留分」を侵害してしまい、他の相続人は「最低分の取り分」の権利を主張できますので、他の相続人が主張すれば、いったん長男が全財産を相続しても、そのなかから、遺留分を権利者に支払う必要があります。
相続財産のなかに、不動産などすぐに分割困難な財産があるときには、話し合いの後、円滑に財産が分割されるまで、長期にわたるケースも珍しくありません。
秘密裏に遺言書を書くのではなく、相続人すべてに配慮した内容にしたいものです。できれば、遺言書を書くとき弁護士や司法書士、行政書士のような専門家の意見も取り入れられれば、相続人に配慮し争いになりにくい遺言書となるでしょう。
家を継ぐって結局どういうこと?
一般的に「家を継ぐ」ということは、「○○家の苗字を名乗る」「○○家のお墓を守る」という意味もあるととらえられることが多いでしょう。
しかし、最近は「○○家の墓」というより、樹木葬や散骨、合祀などを選択する人も増えてきています。祭祀承継者といえば、○○家の法事を執り行ったり、墓守などを担当したりしますが、これらを考慮せずに済むのであれば、遺産相続とは別枠で考えてもいいでしょう。
注意したいのは、「特別受益」や「寄与」という考え方です。結婚する際に、親から多額の支援金や住宅購入資金を援助してもらっていた場合、それは「相続財産の先渡し」とみなされ、相続分を減額されることもあり得ます。
一方、親子で商売をしていたりして、兄が長年、商売の継続や財産増加に貢献していた場合は、「寄与」ということで財産の取り分を増やすための材料ともなり得ます。
財産の相続割合を検討するためには、いろいろな条件を加味すると、「結局どうするのが正しいのか」という疑問がわいてくるかもしれませんが、正解はありません。主張は人数分あるのは当然なので、一方だけの意見をきかず条件のすり合わせをして、妥協点を探っていくしかありません。
家族だからこそ、いったんこじれると修復できなくなることもあります。冒頭のような言葉は明らかに間違いではあるのですが、それを言い出した親の気持ちや理由を傾聴し、親の不安や悩みに寄り添うことから始めてみましょう。
執筆者 : 當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
