更新日: 2021.04.30 遺言書

新設された「自筆証書遺言書保管制度」とは何ですか?

新設された「自筆証書遺言書保管制度」とは何ですか?
ご自身やご家族の死後、遺産トラブルで「相続」を「争族」にしないために、遺言書を残すことが推奨されています。
 
その大切な遺言書を法務局が保管する「自筆証書遺言書保管制度」が、2020年7月10日から始まります。今回は、遺言書の重要性と、新設される保管制度について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

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新設された「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、この機会に遺言書を書きませんか?

相続時に遺言書があるとないでは大違い

相続に際して、遺言書が残されていた場合は、原則として遺言書に従って相続します。一方、遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産を分割するための協議を行う必要があります。(※1)
 


 
例えば、残された遺産が預貯金のみであったとしてもであったとしても、遺言書がなければ、遺産分割協議が整うまでは、貯金を引き出すことはできません。
 
遺言書がない場合に、遺産の分割協議を行う法定相続人は、以下のとおり第1順位から第3順位まで定められており、より上位の順位が優先されます。なお、配偶者は、常に法定相続人となります。(※1)
 
《法定相続人》
第1順位:子(子が亡くなっていた場合は孫)
第2順位:直系尊属(両親が亡くなっていた場合は祖父母)
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていた場合は甥姪)
 

 
特に、以下のケースなどでは、遺言書がないと、遺産分割に多大な手間がかかり、ときとして「相続」が「争族」に発展することがあります。
 
・両親がいない独身者:兄弟姉妹や甥姪が遺産を分割
・子どもがいない夫婦:残された配偶者が義理の親または兄弟姉妹と遺産を分割
・前婚の子供がいる夫婦:残された配偶者が前婚の子と遺産を分割(下図参照)
 

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遺言書を自分自身で書くには

遺言書の作成方式には、主として次の二種類があります。(※1)
 


 
自筆証書遺言書は、自分自身で手軽に作成できる利点はありますが、今までは次のような欠点もありました。
 
《自筆証書遺言書の欠点》
(1)相続人に発見されないことがある。
(2)内容を改ざんされる恐れがある。
(3)相続発生後、家庭裁判所で検認を受ける必要がある。
 
これらの欠点を補い、遺言書の普及を図るため「自筆証書遺言書保管制度」が制定されました。
 
なお、以前は財産目録も自書することが求められていましたが、2019年1月13日から、相続財産の全部または一部の目録を本文に添付する場合には、パソコンを利用して作成することや通帳のコピーを用いることができるようになりました。
 
しかしながら、その目録の一枚一枚(両面記載の場合は両面)に署名し、押印することが求められています。
 
ところで、遺言書に書く内容は原則自由で、生前お世話になった方に財産を残すことも、慈善団体等へ寄付することも可能です。
 
ただし、法定相続人(第3順位の兄弟姉妹を除く。)は、遺産を相続できなかった場合や相続割合に不服がある場合は、民法の定めに基づいて遺留分を請求する権利がありますので、法定相続人に配慮して遺言書を書くことが望まれます。(※1)

自筆証書遺言書を預ける

新設される「自筆証書遺言書保管制度」は、自筆証書遺言書を作成した方が、法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)に遺言書の保管を申請することができる制度です。(※2)
 


 
遺言者が、遺言書の保管を遺言書保管所に申請すると、遺言書保管官が遺言書を確認(全文、日付および氏名の自書、押印の有無など)し、原本を保管するとともに遺言書を画像データに変換し保管します。
 
遺言者が、遺言書の保管を申請する手続きの流れは、以下のとおりとなります。
 

 
保管を申請できる遺言書保管所は、本人の住居地、本籍地または本人が所有する不動産の所在地を管轄する法務局の中から選択することができます。また、申請書のダウンロードや申請の予約は、法務局の専用ホームページから行うことができます。
 
私は、この機会に自筆証書遺言を作成し、施行日の7月1日に保管申請を行いました。手続きには、1時間ほどかかりましたが、無事「保管証」を受領することができました。
 
なお、遺言書を保管したことを家族に伝えるときには、発行された保管証を利用すると良いでしょう。
 
遺言者であれば、いつでも遺言書を閲覧することや、遺言書の保管申請を撤回することもできます。
 
これらの申請ができるのは、下表のとおり、氏名や住所の変更を除き遺言者本人が行う必要があり、代理申請は認められていません。また、保管の申請と遺言書の閲覧は所定の手数料が必要です。(※2)
 

遺言書を相続人などが確認する

相続開始後であれば、相続人や受遺者などは、遺言書保管所に対して、遺言書が保管されているかどうか(遺言書保管事実証明書)を調べることや、遺言書の写しの交付(遺言書情報証明書)を請求することができます。
 
また、遺言書の原本を閲覧することができます。ただし、これらの行為は、遺言者が生存している間は、認められません。(※2)
 
相続人や受遺者などが、これらの請求をする際の流れは、以下のとおりです。
 


 
これらの行為を行うことのできる方、請求先および手数料については、下表のとおりです。
 

 
なお、相続人などの内、一人でもこれらの行為を行った際には、遺言書保管官は、遺言書に記載されたその方以外の相続人などに遺言書を保管していることを通知することになっています。

まとめ

遺言書は、高齢になってから書くものと思っていませんか。しかし、もしものときに備え、あらかじめ遺言書を用意しておくことは、残されるご家族のためにも大切なことです。
 
特に、親のない独身者、子のない夫婦、前婚の子がある再婚者は、新設された「自筆証書遺言書保管制度」を活用して、この機会に自筆証書遺言書を書くことを検討されてはいかがでしょうか。
 
〈出典〉
(※1)国税庁 民法の相続制度の概要~相続税法を理解するために~
(※2)法務局 自筆証書遺言書保管制度について
(※3)法務局 自筆証書遺言書保管制度のご案内
 
※2020/08/07 タイトルを一部修正いたしました。
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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