人間関係がうまくいかず、転職先が決まる前に会社を辞めることにしました。でも、健康保険料の支払いが心配……。どうすればいい?
配信日: 2025.01.28
令和2年度の厚生労働省の調査によると、退職した理由として「人間関係がうまくいかなかったから」を挙げた方は年代別に2~4割に上っており、特に入社まもない20~24歳と働き盛りの50~54歳の層では高くなっています。
このなかには、やむを得ず次の収入の見込みがないまま辞める方も多いのではないでしょうか。そのような方にとって、退職後に自分で支払う健康保険料は負担に感じるはずです。
そこで本記事では、退職後の健康保険料を考えるにあたり、気を付けたいポイントをご紹介します。
執筆者:酒井 乙(さかい きのと)
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。
目次
家族の扶養に入れる方は、家族の健康保険に加入する
人間関係で退職した方のなかには、病院へ通っている方もいるでしょう。そこで、健康保険の手続きと内容を知っておくことは大切です。
勤務先を退職すると、会社を通じて加入している健康保険組合から脱退することになり、それまでの健康保険証が使えなくなります。扶養家族がいる場合は、家族分の保険証も含めて、退職時に会社へ返納しなければなりません。
そこで、新たに自分で健康保険に加入する必要があります。選択肢は主に次の3つです(図表1)。
1. 国民健康保険に加入
2. 退職前の勤務先が加入している健康保険を、保険料を支払って継続(任意継続)
3. 配偶者や家族が加入している健康保険に被扶養者として加入する
図表1
では、どれを選べばいいのでしょうか。
もし、配偶者や親、子どもが企業などに勤めている場合は、「3.配偶者や家族が加入している健康保険に被扶養者として加入する」を選びましょう。扶養に入ることができれば、追加の保険料なく、健康保険に加入できます。
ただし、実際に扶養に入れるかどうかは、生計同一や収入(注)などの基準を満たしている必要がありますので、必ず加入を考えている健康保険組合に確認してください。特に、次のような方は要注意です。
■少し休んでからアルバイトや再就職を考えている方の場合
扶養の判定基準の一つである今後1年間の収入見込みが、基準額を超えてしまう可能性がある
■雇用保険の傷病手当金または基本手当(いわゆる失業手当)を受け取っている方
扶養の判定基準(今後1年間の収入見込み)に含まれる
(注):今後1年間の収入見込みが令和6年12月現在で130万円以上かつ被保険者の収入見込み額の2分の1未満であること、など
扶養に入れない方は国民健康保険と任意継続の保険料を比較して選ぶ
では、単身者など、家族の扶養に入れない方はどうすればいいのでしょうか。
その場合、1の国民健康保険か、2の任意継続のどちらかを選択します。ただし、任意継続は最大2年間ですので、期限終了後は再就職しないかぎり、国民健康保険に切り替えます。
どちらを選ぶかは、退職後にゆっくりと比較検討してください、と言いたいところですが、国民健康保険は以前の健康保険の資格喪失から14日以内に、任意継続については20日以内に手続きしなければなりません。できれば、退職前に比較検討しておきたいところです。
国民健康保険、任意継続にはそれぞれメリット・デメリットがありますが、退職後の収入がない方は、保険料が安くなるほうを選ぶのが無難です。どちらが安いかは、退職前の収入や世帯の人数などによってケース・バイ・ケースです。
国民健康保険についてはお住まいの市区町村に、任意継続については勤務先の健康保険組合に、それぞれ保険料がいくらになるのか確認してから選ぶようにしてください。安易に選択すると、後で高額な保険料の請求に驚くこともあります。
なお、以下はどちらの保険料が安くなるか、についてのおおまかな目安です。ただし、繰り返しになりますが、実際に選ぶ際は、必ず市区町村と健康保険組合に確認するようにしてください。
<任意継続のほうが安くなりそうな方>
■扶養家族がいる方
国民健康保険は、扶養している家族にも保険料がかかります。
■健康保険組合に独自・付加給付があり、任意継続後もこれらの給付を受けられる方
■退職した年に土地や家屋などを売却して確定申告している方
国民健康保険は譲渡所得があると、保険料が高くなるためです。
<国民健康保険のほうが安くなりそうな方>
■災害や失業などによる減免措置が受けられる方
任意継続には、減免措置がありません。
■前年の収入が低い、またはない方
任意継続は2年間保険料がほとんど変わりませんが、国民健康保険は前年の収入によって保険料が変わります。そのため、一度任意継続を選んでも、その後の収入が低い、もしくはない場合、翌年に国民健康保険に切り替えたほうが保険料は安くなる場合があります。
なお、よくある間違いとして、在職中に天引きされていた健康保険料と国民健康保険料を比較している方がいます。
在職中の健康保険料(40歳以上の方なら介護保険料も含む)は、会社が2分の1を負担してくれていますが、退職すると会社の負担はなくなりますので、在職中の2倍の保険料を払うことになります。
比較するときは、必ず勤務先の健康保険組合に任意継続後の保険料を確認し、その額と国民健康保険料を比較してください。
退職後の健康保険で気を付けたいポイント(まとめ)
ここまでの内容をもとに、次の職場が決まっていない方が退職後の健康保険を切り替えるにあたり、気を付けたいポイントを以下にまとめてあります。
■退職すると、それまでの健康保険証は使えなくなる
■退職した後の健康保険を自分で決めなければならない
■退職後の健康保険には、主に「国民健康保険」「退職前の健康保険を継続(任意継続)」「家族の健康保険の扶養に入る」の3つがある
■家族の健康保険に被扶養者として入れるなら、保険料負担がないこちらをまず選ぶ。ただし、要件を満たすかどうかは、加入する健康保険組合に確認すること
■退職後1年以内に再就職やアルバイトを考えていたり、雇用保険の傷病手当金や基本手当を受給したりしている方は、扶養に入る基準から外れていないか注意
■保険料が安くなるほうを選ぶこと。そのためには、国民健康保険については市区町村に、任意継続については職場の健康保険組合に保険料の見込み額について確認しておくこと
■任意継続できる期間は2年間。その後は国民健康保険に切り替える。ただし、任意継続期間中でも国民健康保険に切り替えることができるうえ、国民健康保険料のほうが安くなる可能性があるため、退職の翌年にも保険料を比較しておくこと
収入がないなかで不要な出費を抑えるためにも、ぜひ以上の点に気を付けて、賢い選択を心掛けてください。
退職後の支払いに備えて、節度ある支出を心掛けましょう
本記事では健康保険について解説しましたが、退職後には健康保険以外にも、所得税(源泉徴収されていない収入がある場合)や住民税(退職の翌年に支払う)、国民年金保険料などの支払いが待っています。
健康保険も含めて、これらは在職中、給与や賞与から天引きされていたものです。退職後にいざ自分で支払ってみると、その負担の重さに驚くことも少なくありません。退職後は心身を回復させつつ、それらの支払いに備えて節度ある支出を心掛けるようにしてください。
出典
厚生労働省 令和2年転職者実態調査の概況 個人調査 2.離職理由 表16
全国健康保険協会 任意継続のご案内
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。