派遣の契約が「入院中」に終了……。「傷病手当金」や「失業手当」を受け取ることはできないのでしょうか?
配信日: 2025.02.20

このとき「正社員と比べ、派遣社員は社会保障に差があるのではないか」と不安に思う人もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、派遣社員の補償について見ていきます。

執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている
派遣社員の雇用形態を確認
ひとくちに「派遣社員」といっても、雇用形態の違いがあり、具体的には「有期雇用派遣」と「無期雇用派遣」という契約方法があります。有期雇用派遣は一般的な契約方法で、派遣先企業が決まった場合に、派遣会社と派遣期間などを定めて契約することになります。
一方の無期雇用派遣は、派遣会社と期間の定めのない雇用契約を結びます。派遣先企業の就業期間が終了しても、派遣会社との契約は継続して、次の派遣先企業が決まれば派遣される契約となります。
有期雇用派遣の場合、要件によっては社会保険に加入しないケースもあるでしょう。しかし、契約が2ヶ月以上となる場合には、社会保険に加入することになります。
なお、ここでいう「社会保険」には、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労働者災害補償保険があり、それぞれに加入条件が異なります。
本記事では、健康保険から支給される「傷病手当金」と雇用保険から支給される「失業手当」について説明します(この手当は併給できず、別々の期間で受け取ることになります)。
傷病手当金を受け取るための条件
派遣社員であっても、一定の条件を満たしていれば、健康保険から「傷病手当金」を受け取ることが可能です。傷病手当金は、病気やけがで働けなくなった際に、収入の減少を補うための制度です。ただし、この制度を利用するには以下の条件を満たす必要があります。
傷病手当金の金額は、「支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3」となります。
12ヶ月に満たない場合は、(1)支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均か(2)標準報酬月額の平均額(30万円)のうち、どちらか低い額に3分の2を掛けたものとなります。
健康保険に加入していること
派遣社員が健康保険に加入している場合、傷病手当金の対象となります。派遣社員が雇用期間中に病気やけがを発症した場合、傷病手当金の受給資格は発症時の加入状態で判断されることになります。
つまり、健康保険に加入しているときにかかった病気やけがであれば、一定の条件を満たすことで傷病手当の対象となる可能性があります。
就労が困難であること
傷病手当金を受け取れるのは「病気やけがにより、仕事を行うことができない」と医師が判断した場合に限られます。診断書は必ずしも必要ではありませんが、医師からの証明が必要になります。
また、病気やけがによって4日以上連続して働けない日があることも必要です。最初の連続する3日間は「待機期間」として扱われ、4日目以降に支給が開始されます。
給与が支払われていないこと
働けない期間中に給与が支給されている場合は、傷病手当金の支給額が調整されるか、支給対象外になることもあります。この点も注意が必要です。
以上の条件を満たすことで、傷病手当金を受け取ることが可能です。しかし、派遣契約の終了や健康保険資格喪失など、派遣社員特有の事情が支給要件に影響することがあるため、状況をしっかり確認することが重要です。
失業手当を受け取るためには?
派遣社員として働いていた場合、契約が終了すると「失業」の状態になります。失業手当は、雇用保険に加入していた期間や退職理由などの条件を満たすことで受け取ることが可能です。以下に受給のポイントを説明します。
失業手当の金額は、原則として離職直前6ヶ月に決まって支払われる賃金の合計額を180で割って算出した金額のおよそ50~80%となります。
雇用保険の加入期間を確認
雇用保険に加入している場合、原則として「直近2年間で通算12ヶ月以上」雇用保険の被保険者期間がある場合に、失業手当の対象となります。契約期間が短期である場合や、雇用保険に加入していなかった場合は対象外となることもあるため、派遣会社に確認してみましょう。
退職理由による給付制限の違い
自己都合での退職か会社都合での退職かによって、失業手当の給付開始時期が異なります。会社都合による退職(例:契約満了など)の場合は給付制限期間がなく、すぐに受給が開始されます。一方、自己都合退職の場合は3ヶ月間の給付制限があります。
病気やけがを理由で働けなくなり契約期間中に退職した場合には、「自己都合退職」と判断されますが、働ける状態となり失業給付を申請した場合には、給付制限なく支給される可能性があります。
ハローワークでの手続き
失業手当を受け取るためには、まずハローワークに失業の認定を受ける必要があります。必要書類には「離職票」が含まれるため、派遣会社からの発行を忘れずに依頼しましょう。また、手続きの際には定期的な就職活動の報告が求められる点にも注意が必要です。
失業手当は、病気やけがで働けない状態にある場合には支給されませんが、病気やけがが治り、就職活動を再開したタイミングで、受給の対象となることがあります。
また、本来の失業手当の支給期間は退職した日の翌日から1年間ですが、失業の認定を受けた後に病気やけがで就職活動ができない場合には、申請することにより最長4年間延長することもできます。
まとめ
派遣社員として働いている場合でも、傷病手当金や失業手当を受け取れる可能性はあります。ただし、それぞれの制度には加入期間や退職理由などの条件があり、契約内容も確認しながら手続きを進める必要があります。
傷病手当と失業手当は同時に受け取れませんが、それぞれを受け取ることは可能ですので、病気やけがが治った後はハローワークで手続きを行いましょう。
出典
全国健康保険協会 協会けんぽ 傷病手当金
厚生労働省 ハローワーク インターネットサービス 基本手当について
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー