60年アメリカで過ごし、老後は「社会保障が充実してるから」と日本へ帰国…「社会保障のタダ乗り」「不公平すぎる」批判的な意見多数だけど、制度として問題ないの?“納得できない理由”とは
日本に住民票を置く人は、原則として日本の公的医療保険制度の対象になります。しかし、長年海外で生活していた人が老後に日本の医療制度を使うと聞くと、「不公平ではないか」と感じる人がいるのも無理はないかもしれません。
本記事では、日本の医療保険制度の仕組みについて確認したうえで、議論の中でしばしば持ち出される日米間の社会保障協定について解説します。あわせて、「タダ乗り」と受け取られやすい背景についても考察していきましょう。
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
銀行にて12年勤務し、法人および富裕層向けのコンサルティング営業に従事。特に相続対策や遊休地の有効活用に関する提案を多数手がけ、資産管理・税務・不動産戦略に精通。銀行で培った知識と経験を活かし、収益最大化やリスク管理を考慮した土地活用のアドバイスを得意とする。
現在は、2社の経理を担当しながら、これまでの経験をもとに複数の金融メディアでお金に関する情報を発信。実践的かつ分かりやすい情報提供を心がけている。
日本の医療保険制度の仕組み
国民皆保険制度に基づき、日本に住所を有する人は原則として何らかの公的医療保険に加入する仕組みとなっています。具体的には、自営業者や無職の人などは国民健康保険に、75歳以上になると後期高齢者医療制度に加入する、といった具合です。
公的医療保険に加入すると、給与収入や年金収入などに応じた保険料を負担することになります。国民健康保険の加入要件は、日本に住所があり、ほかの公的医療保険に加入していないことなどとされています。そのため過去の国内居住期間や勤務年数によって加入を制限する仕組みではありません。
この制度設計を踏まえると、海外での生活が長い人が老後に日本の医療保険に加入することは、制度上認められている運用といえます。
日米間の社会保障協定とは?
海外で働いた経験がある人をめぐっては、社会保障の扱いが議論になることがあります。日本は複数の国と社会保障協定を結んでおり、アメリカとの間で結ばれているのは「日米間の社会保障協定」です。
この協定は、アメリカで働く人が日米両国の制度の違いによって不利にならないよう、社会保障制度の調整を目的として締結されたものです。
日米間の社会保障協定では、アメリカで年金保険料を納めていた期間を日本の年金制度でも評価できるようになっています。あわせて、同じ期間に日米双方で年金保険料を二重に負担することがないよう、制度間の調整を行う仕組みも設けられています。
ここで気を付けたいのは、医療保険はこの協定の対象ではないという点です。社会保障という言葉から、年金と医療を同じ枠組みで捉えがちですが、日米間の社会保障協定が扱っているのはあくまで年金制度に限られます。
日本の医療保険は、協定とは切り離され、日本の制度に基づいて運用されています。
それでも「モヤっと」する理由はどこにあるのか
制度の前提を理解してもなお違和感を覚える人が多い背景には、日本の医療制度の構造があります。日本の公的医療保険は、主に現役世代が支払う保険料によって高齢者医療を支える仕組みになっています。
会社員の場合、健康保険料は給与の約10%が保険料として設定され、その半分を本人が負担しています。こうした負担を実感している人ほど、現役時代の保険料の納付状況にかかわらず、同じ医療制度を利用できる人がいることに不公平感を覚えるのは、自然な反応といえるのではないでしょうか。
ただし、これは制度の支え方に対する違和感であり、海外での生活が長かった人がルールを逸脱しているわけではありません。定められた要件に基づいて医療保険に加入し、保険料を負担している以上「タダ乗り」と断じるのは、制度の実態とは一致しないと言えます。
まとめ
60年アメリカで暮らし、老後に日本の医療制度を利用するケースは、制度上は問題なく「タダ乗り」をしているわけではありません。一方で、こうした事例に不信感が向けられやすい背景には、現役世代の保険料で高齢者医療を支えるという、医療保険制度の構造的な問題があります。
感情的な批判で終わらせるのではなく、制度の前提を正しく理解したうえで、医療保険のあり方について議論していくことが求められます。
出典
厚生労働省 我が国の医療保険について
全国健康保険協会 令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)
執筆者 : 竹下ひとみ
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種