「医療費15万円」かかったのに“保険金10万円”のせいで、医療費控除がゼロに…「月3000円・15年」かけ続けた民間保険、入らないほうが“35万円得”だった?【FP解説】
毎月コツコツ払い続けてきた医療保険のせいで医療費控除が使えないとなったら、理不尽に感じるのも無理はないでしょう。では、本当に保険に入らないほうが得だったのでしょうか。
本記事では、医療費控除の概要を分かりやすく解説します。また、入院給付日額1万円、月3000円を15年間支払っていたケースを例に、保険加入あり・なしの費用差をシミュレーションし検証します。
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
銀行にて12年勤務し、法人および富裕層向けのコンサルティング営業に従事。特に相続対策や遊休地の有効活用に関する提案を多数手がけ、資産管理・税務・不動産戦略に精通。銀行で培った知識と経験を活かし、収益最大化やリスク管理を考慮した土地活用のアドバイスを得意とする。
現在は、2社の経理を担当しながら、これまでの経験をもとに複数の金融メディアでお金に関する情報を発信。実践的かつ分かりやすい情報提供を心がけている。
医療費控除は「自己負担分」だけが対象
医療費控除は、その年に支払った医療費から保険金などで補填された金額を差し引き、さらに医療費控除の基準額となる10万円(所得200万円未満は所得の5%)を引いた金額が対象です。対象となる金額を所得金額から差し引くことで、税負担が軽減される仕組みです。
今回のケースでは、
医療費15万円
保険金10万円(1万円×10日)
自己負担5万円
であり、自己負担が10万円を超えていません。そのため、医療費控除は0円になります。
一方、保険に加入していなかった場合は、医療費15万円から医療費控除の基準額となる10万円を差し引いた5万円が医療費控除の対象となります。仮に課税所得300万円の会社員(所得税10%、住民税10%想定)であれば、5万円×20%=約1万円、税負担が軽くなることになります。
医療費15万円、保険金10万円の場合の実質負担額
次に、医療保険に入っていた場合と入っていなかった場合の実質的な費用負担についてみていきましょう。
【医療保険あり】
実質負担=15万円-10万円(保険金)=5万円
【医療保険なし】
実質負担=15万円-1万円(医療費控除)=14万円
比較すると、保険に加入していたほうが約9万円有利であることが分かります。そのため「保険金のせいで控除が消えた」というより「保険金で自己負担金が減った結果、控除の対象外になった」という理解が正しいです。
15年間トータルで考えるとどうなる?
今回の年間医療費だけを見れば、保険に加入していたほうが自己負担は少なくなります。しかし、保険は月3000円を15年間支払ってきた契約です。年間の損得と、長期の支払総額は分けて考える必要があるでしょう。
医療保険の支払い総額を計算すると、3000円×12ヶ月×15年=54万円です。受け取った保険金10万円と15年間のコストを差し引きすると、保険料54万円-受取10万円+自己負担5万円=49万円となります。
保険に入っていなかった場合では14万円の費用負担だったことを考えると、49万円(保険あり)-14万円(保険なし)=35万円
医療保険に加入してから保険金の請求がこの年だけなら、保険未加入のほうが費用負担は35万円少なく済んだことになります。
まとめ
今回のケースでは、この年だけの費用負担で見ると保険加入が有利で、保険金請求が15年間で1回だけなら未加入が有利という結果になりました。ここまで読むと「医療保険はいらない」と結論づけたくなるかもしれませんが、それは早計です。
医療保険の本質は「リスクへの備え」です。貯蓄が十分にあれば不要かもしれませんが、そうでない場合は、いざというときの家計の防波堤として機能します。
理不尽に感じるのは「自分で備えた努力」が「公的なサポート」を打ち消してしまったように見えるからでしょう。しかし、医療費控除は実際に自腹で払った医療費の負担を軽くするための制度です。役割が異なる以上、単純な損得だけで優劣は決まりません。
なお、医療費に関しては高額療養費制度もあります。これは同一月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定額を上回った分が払い戻されるものです。医療費に関する制度の仕組みを理解したうえで、民間の医療保険が自分にとって必要なものなのか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
出典
国税庁 医療費控除を受ける方へ
国税庁 No.2260 所得税の税率
全国健康保険協会 高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)
執筆者 : 竹下ひとみ
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
