更新日: 2019.01.10 その他暮らし
誰もがうらやむ豪華な設備や利便性がメリットのタワーマンション!そこに潜む落とし穴とは。
こうしたマンションは通勤ラッシュから解放されるため、職住近接が意識され、東京都の湾岸地区に集中的に建設されてきましたが、現在はタワーマンションを取り巻く環境が変わりつつあります。
今回はタワーマンションを住まいに選ぶ際の注意点をご紹介させていただきます。
Text:菊原浩司(きくはらこうじ)
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級
製造業の品質・コスト・納期管理業務を経験し、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視したコンサルタント業務を行っています。
特に人生で最も高額な買い物である不動産と各種保険は人生の資金計画に大きな影響を与えます。
資金計画やリスク管理の乱れは最終的に老後貧困・老後破たんとして表れます。
独立系ファイナンシャルプランナーとして顧客利益を最優先し、資金計画改善のお手伝いをしていきます。
タワーマンション急成長の落とし穴
タワーマンションのそもそもの意義は古い住宅や商店街を高度利用するため、官民一体となった市街地の再開発でした。
マンション敷地を公園などとして一般開放する「公共性」を有している場合、マンションの容積率(どれくらい大きな建物を建てていいですよという法律上の規制です)を緩和する優遇措置が与えられ、さらに再開発に伴う補助金の交付を受けることもできます。
再開発事業は、以前はオフィスビルや複合商業施設なども対象となっており、六本木ヒルズなどは再開発の代表的な成功例です。
しかし人口減少による日本市場の購買力低下という先行き懸念から、こうした商業的ニーズが頭打ちとなってしまいました。
そのすき間を埋めたのが住宅としてのニーズでした。人口減少時特有の人口動態として、郊外から都市中心部への人口集中が始まるようになります。
東京は多くの企業の本社機能が集中した高度集約都市ですが、多くの会社員は地価の安い郊外や周辺県境のベッドタウンからの通勤を余儀なくされていました。
利便性が良く、職場が近い「職住近接」は通勤ラッシュに苦しむ会社員にとっては抗しがたい魅力がありました。
高まる住宅ニーズを背景に東京都内のタワーマンションの着工件数が徐々に増加していきますが、住宅供給に偏重した再開発により急激に地域人口が増加したため、本来備えているべき学校や駅などの公共施設の不足を招きました。
その結果、遠方への通学を余儀なくされたり通勤時間帯は駅に長蛇の列が生じるなど、職住近接を充分に満たせない結果となってしまう場合もあります。
共有設備の落とし穴
豪華な共有設備はタワーマンションの大きなセールスポイントになります。しかし、この共有設備を維持する労力は大変なものです。
豪華設備も時間の経過とともに性能が劣化していきますので、定期的な修繕は欠かすことができません。
さらに、導入当初は豪華だった設備も次第に陳腐化してしまいます。共有設備に関しては、経年による性能的劣化以外にも、陳腐化による機能的劣化にも対応していく必要があります。
マンションの長期的な修繕に関しては「長期修繕計画」を作成し、計画に裏付けされた資金を工面する必要があります。
このように共有設備はマンションの住民全員の負担によって維持されています。数百という住居を抱えるタワーマンションの経済規模は、小さな自治体にも匹敵するものです。
しかしそれだけの資金力を有していても、マンション住民の自己管理による設備維持には限界があります。
そこで、マンション管理の専門家であるマンション管理会社に管理業務を委託し、自己管理よりも効率的に共有設備を維持管理・修繕を行っています。
マンションに居住した場合、毎月発生する2つの支出があります。
そのうちの1つは「管理費」と呼ばれるもので、マンション管理会社への業務委託費用となります。管理費を支払っているマンション居住者には大きな負担となっています。
管理費はマンション居住者にとっては削減したい支出です。
しかし、管理費は物価・給与賃金の上昇・消費税率の影響を受けるため、2019年10月から予定されている消費税の10%増税に際して、値上げ交渉が実施されると予想されます。
管理費の値上げはマンション居住者にとって大きな負担増となりますが、マンション管理会社もギリギリの利益で管理を続けています。
管理費の値上げを認めれば支出負担が増加し、値上げを拒否すればマンション管理会社は収益性が悪化し管理サービスの低下を招き、共有設備劣化に対処しきれない恐れがあります。
どちらを選択するにしても、消費税の増税はマンション居住者の不利益につながってしまいます。
膨らみ続ける修繕積立金の落とし穴
さて、マンションに居住した場合に生じる2つめの支出として、「修繕積立金」があります。これは、長期修繕計画に則して計画的に修繕資金を貯めるため、管理費とは別に管理・積み立てされています。
この修繕積立金は、多くのマンションで「段階増額積立方式」という方法を採用しています。これは築年数の経過とともに、修繕積立金の額を増加させていく方式です。
入居当初は安く設定されていますが、早くて2~3年で最初の増額を迎えます。
この増額の際のトラブルが、実は少なくありません。マンションの仲介会社などの説明不足や、顧客の認識不足などにより修繕積立金の増額拒否などに発展することもあり、初回修繕から費用が不足するといった事例もあります。
また、タワーマンションは修繕の際に足場作業が行えず、ゴンドラを用いる必要があるなど、修繕費が比較的高額になる傾向があります。
段階的に増加していく修繕積立金は、収入が減少した高齢世帯には重い負担としてのしかかってきます。
政府の方針としては、新築時から修繕積立金の額が一貫している「均等積立方式」を推進していますが、現状はさほど普及していません。多くの場合で老後に修繕積立金が増額されると考え、老後の資金計画に織り込む必要があります。
まとめ
タワーマンションは住宅の供給が急速に膨らんだため、交通機関などのインフラ整備が追い付いておらず、かえって生活が不便になってしまうエリアもあります。
また、物価変動や増税、築年数の経過により管理費や修繕積立金が増加してしまうこともあります。その結果、収入の低下した老後に多額の費用負担が生じ、老後の資金計画に影響を及ぼしてしまう恐れがあります。
またマンション住民の高齢化により、これらの費用を負担できない居住者が増えてしまった場合はマンション管理そのものが立ち行かず、資産価値の低下した荒廃マンションと化してしまいます。
マンションは共同住宅のため、戸建てのようにライフステージに応じて住居にかかるコストを変化させることが難しくなります。マンションのもつ現在の問題と未来の問題をそれぞれ正しく認識し、対策をたてることが必要です。
Text:菊原浩司(きくはらこうじ)
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級