騙されないために知っておきたい不動産業の実態(1)~「両手取引」という悪習~
配信日: 2019.12.17
今回は「不動産業の実態」として、不動産業界に今も残る問題点を考え、不動産の購入・売却を行う際に気を付けておくべきことを、ファイナンシャル・プランナーであり、宅建マイスター(上級宅建士)でもある筆者からお伝えしたいと思います。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
http://www.nishiyama-ld.com/
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
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そもそも不動産業とは?
広い意味で「不動産業」というと「売買・賃貸の仲介」「販売」「管理」「開発」などさまざまな業態が存在します。
さらに不動産の活用方法などを検討する「不動産コンサルタント」も広い意味で「不動産業」といえるでしょう。
その中でも「宅地建物取引業」というのは不動産(宅地建物とはいいますが、宅地に限らず全ての土地と建物が対象)の販売、仲介などの取引を行うための免許を国土交通省、あるいは都道府県知事から受けた法人あるいは個人事業主のことを指します(宅地建物取引業を略し「宅建業」、それを行う業者は「宅建業者」と呼ばれます)。
免許を受けるには事務所を構え、そこに備え付けるべきいくつかの条件を満たしている必要があり、一つひとつの事務所にはその従業員数に応じて必ず一定数以上の「宅地建物取引士」を置かなければなりません。
宅建業者は物件の調査などを行い、売り主と買い主の間に立って、価格はもちろんさまざまな条件調整を行うとともに、調査結果と調整の結果をまとめた重要事項を説明し、売買契約書を作成し、安心して契約、代金の決済と引き渡しまでを行えるようにすることで、仲介手数料という報酬を得ます。
不動産取引にかかわる法律はこの「宅建業法」のほか、「民法」「商法」「建築基準法」「借地借家法」「都市計画法」「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」「農地法」、さらに「所得税法」「消費税法」「地方税法」などさまざまな税法などが関係します。
また、各自治体などによる条例、地域ごとの慣習なども関係してきます。宅地建物取引業は非常に多岐にわたる知識と経験が必要だといえます。
ここでは、主にいわゆる宅地建物取引業の実態について考えます。
不動産業、宅建業の歴史
戦後、東京をはじめ多くのところが焼け野原になったころは、特に資格や免許、知識がなくても不動産取引を仲介することができました。悪質な業者がはびこり、詐欺なども横行したといいます。
こういった事態から、一般消費者の生活と密接なかかわりのある不動産の取引を安全に行うことができるよう、昭和27年に「宅地建物取引業法(宅建業法)」が制定されました。
「地上げ」という単語を聞いたことがある方もいるでしょう。建物を建てるには土地が必要であり、大きな建物を建てるには大きな土地が必要です。
しかし、不動産はそこに住む人の生活基盤、事業を営む会社などにとっての事業基盤。そう簡単に売る気のない不動産を売ってもらうことはできません。
複数の土地を同時期に買い上げ、1つのまとまった土地にするためには多大な時間や労力がかかるとともに、1件でも残ってしまうと計画が実現できないことから、土地をまとめることには大きなリスクがありました。
そのため、最終的に土地を取得する企業や個人に代わって地権者から不動産を買い上げる業者がいました。それがいわゆる「地上げ屋」です。
こうした業者が存在していたことで大規模なプロジェクトが成立した側面はありますが、中には手荒い交渉や手段を使った業者もいたことから、「地上げ屋」は良い印象を持たれなかったのでしょう。
これらのような背景が、不動産業全体のイメージを悪化させたという側面も否めないでしょう。
宅地建物取引主任者(現・宅地建物取引士)という資格が創設されたのは昭和33年。不動産の仲介を行う際、重要事項説明や契約の締結においては、一定レベル以上の知識を持つ資格者が対応することを義務付けられました。
これにより、不動産取引にかかわる人の質を高め、安心・安全に不動産取引を行えるようにし、悪質な取引を行った場合は資格を失うこともあります。
宅地建物取引士の資格は、業者や不動産取引にかかわる人のモラルを高める目的で作られたものだといえます。
「両手取引」という悪習
では、今はどの不動産業者に頼んでも安心なのでしょうか。残念ながらそうとも言い切れません。
不動産業は、お客さまの不動産取引が成立した時に、お客さまから「仲介手数料」をいただくことで成り立っています。
不動産取引では売り主と買い主がおり、ほとんどの取引で「不動産仲介業者」が両社の間に入り、物件調査やさまざまな条件調整、契約書の作成やさまざまな段取りを行います。
日本の不動産取引では、物件の所有者から不動産の売却を依頼される業者と、不動産を取得したい人から物件探しを依頼される業者が、同じであることが少なくありません。
自社で取り扱う不動産、つまり売り主から売却を依頼され自社で預かった売却不動産を、自社で見つけた買い主が購入することで、手数料の受領を売り主と買い主の双方から受ける不動産業者が多くあります。
このように、仲介業者が売り主と買い主の両方から手数料を受領する取引を「両手取引」といいます。特に大手の不動産業者では「なんとか両手取引にしたい」という傾向が強くあります。
不動産業者が売り主あるいは買い主の一方から受領することできる仲介手数料については、国土交通省の通達によって上限が「物件価格の3%+6万円+消費税」と定められています。
両手取引であれば、売り主と買い主の双方から最大物件価格の6%+12万円+消費税を受け取ることができ、一件の取引で2倍の手数料の収入が見込めます。
しかしよく考えてみてください。不動産を売却する「売り主」は「なるべく高く売りたい」、買い主は「なるべく安く、安全に取引したい」と考えるでしょう。売り主と買い主の目的はまったく異なり、利益が相反する関係にあります。
仲介業者が少しでも多くの手数料を受けたいと考えた際、物件価格は高いほうが仲介手数料も大きくなり、業者はもうかります。
一方、「ひとつでも多くの契約をまとめたい」「早くこの契約をまとめたい」と考えるならば、値下げして売却するよう売り主を説得したほうが業者にとって得策ということもあるでしょう(もちろん、売り主に対しては業者の本音は見せずに交渉するでしょうが)。
業者にとっては取引を成立させなければ報酬は得られないため、取引をまとめることが最重要課題です。そのためには売り主・買い主のいずれかあるいは両方に我慢してもらうよう説得を試みるでしょう。その過程を売り主・買い主は知ることができません。
また、「この物件の欠点をお伝えすると買ってくれる人がいなくなる」などと考え、義務ではないことについては買い主に伝えない悪質な業者もまれに存在します。
こうした利益相反の関係にある売り主・買い主の間にひとつの仲介業者のみが入ると、金額や条件を業者がコントロールできてしまい、どちらかの、あるいは両方の利益を損なう結果にもなりかねません。
まとめ
弁護士は利益が相反する当事者双方の弁護をすることが禁止されていますし、アメリカなどでは多くの州で不動産仲介業者の両手取引を禁止しているといいます。
しかし、日本の不動産業界で「両手取引」は常識といっても良い状況です。両手取引はほとんどのケースで一般消費者のためにならない悪習であると考えられます。
一般の消費者にとって不動産取引は、一生のうちにそう何度も経験するものではありません。
一方、不動産業者はこうした業務に年に何件も携わるプロです。感じの良い印象の営業マンであるほど、表の顔と自分の本心や会社の本音を使い分けているかもしれません。
筆者が考えるには、「正直な不動産屋」は少ないというのが現実であったりします。
次回は、宅建業者の目的を少し具体的にお伝えしようと思います。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
上級相続診断士®、宅建マイスター(上級宅建士)