更新日: 2021.03.05 その他暮らし

「1000円割引クーポン」をもらった。これって、店先での割引セールと何が違うの?

「1000円割引クーポン」をもらった。これって、店先での割引セールと何が違うの?
今さらのようですが、「割引クーポン」は身の回りにあふれています。郵便物、ネットのメルマガ、スマホアプリなどで毎日のように届いたり、新聞や折込広告の一角に印刷されているなど、目にしない日はないくらいです。

これって「○○○円割引します」と店先やサイトに表示しておけば、わざわざクーポンの形にしなくてもいいようにも思えます。何が違うのでしょうか。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

お店の立場から見ると

「割引クーポン」は多種多様です。金額記載のクーポンもあれば、割引率を示すものもあります。有効期限は、数日間くらいの短めから1、2ヶ月先のような長期間もあるなど幅広いです。
 
また、「○○○○円以上のお買い上げで利用可能」と最低利用金額が設定されているケースが、割引額(率)が高い場合は特に多いようです。
 
お店がこうした割引クーポンを発行する際の狙いはいろいろありますが、まずは「顧客」です。中身は新規獲得とリピーター確保の2つに分かれます。
 
駅前や店頭で通行者に配っているクーポンはもちろんですが、郵便物やメルマガで送られてくるもので販売元に取りあえず心当たりがない場合も、新規獲得を狙ったものでしょう。
 
一方、利用したことのあるお店やネットショップから紙やデータでクーポンが送られてくるのは、リピーター確保のため。購入実績のあるお客さま限定のサービスという形で心がくすぐられる方もいるはずです。
 
なお、利用したことのあるところから、もしも購入実績のないジャンルの商品のクーポンが届いたら、リピーターフォローと新規獲得を兼ねているのでしょう。
 
次の狙いは「価格の維持」です。「○○○円割引します」と店先やサイトに表示してしまうと、割引後の価格でしか販売できなくなってしまいます。
 
これに対して、クーポンを持参(利用)した人だけ割り引くことにすれば一律の“値崩れ”を避けて、クーポンに表示された期間だけ割引することが可能です。このように相手先や時期を絞り込んだ限定的な措置にすれば、見た目の店頭価格は維持できます。
 
さらに「売上増」も狙いの1つでしょう。「○○○○円以上」のように最低利用金額を設定していれば、“ついで買い”の誘発が期待できるわけです。
 

お客の立場から見ると

では、お客(買い手)の立場から見るとどうでしょうか。行動経済学などでの次のような理論が参考になります。
 

<保有効果>

・いったん手に入れたモノには高い価値を感じて、それを手放すことに抵抗がある心理状態を意味します。
 
・関連する実験結果では、あるモノをプレゼントしたうえでいくらならそれを売るか聞いたところ、買ってもよいと思う人の想定価格の2倍以上でした。
 
・このような「保有効果」は、

(1)そのモノへの愛着
(2)自分の感じる価値(価格)が他人にも通用するだろうという考え
(3)新たに手に入れるよりも、今持っているモノを失うことに重み(痛み)がある

などで説明されます。
 

<現状維持バイアス>

・「バイアス」とは、認知の仕方によって偏った考え方や選択をしてしまう意味です。
 
・人は、現状を変更することは変えない場合よりもデメリットが大きいと感じて現状維持をしたがるといわれます。
 
・上記の「保有効果」の実験結果や(3)から類推すると、失うデメリットの2倍以上のおトクさがなければ、現状を変えたがらないかもしれません。
 
例えば店頭価格3000円の商品で、店先やサイトで単純に1000円割引の表示がされているだけでは、「ふーん、そうなの」とチラ見するだけでやり過ごすケースも多いでしょう。
 
しかし、1000円割引クーポンが自分に対して発行されている場合は、一種の“金券”をもらったような意識となります。
 
額面1000円ですが、これを失う(=使わずに失効してしまう)ことは、もしかすると2倍の2000円以上の大きな痛みに感じるかもしれません。その結果、クーポンを有効期限までに行使するため買い物をしてしまうのです。
 

まとめ

今回の「割引クーポン」のケースで合理的ではないように思える判断や選択がされる理由として、先述の2つのほかに「損失回避性」や「現在志向バイアス」などが指摘されることもあります。
 
細かい理屈はさておき、お店もやみくもに割引クーポンを発行するわけではなく、狙いがあるのです。
 
クーポンの割引額(率)の大きさや有効期限などに踊らされることなく、その商品を買った場合と買わなかった場合の自分をイメージして、クーポンを実際に利用するかどうかをできるだけ冷静に判断したいものです。
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
 

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