更新日: 2021.04.14 その他暮らし

1万9500円なら旅行に出かけたい。では、3万円だったらどうする?

1万9500円なら旅行に出かけたい。では、3万円だったらどうする?
新型コロナウイルス対策の「緊急事態宣言」が今年1月7日を皮切りに再発出されました。2度の期限延長を経て3月21日にようやく全国での解除が出そろったものの、その後の感染状況のため、今は複数のエリアで「まん延防止等重点措置」が適用されている状況です。
 
一方、コロナ禍のもとで策定された「Go To トラベル事業」ですが、全国一律としては昨年10月1日にようやくスタートしたものの、コロナ感染拡大のため早くも12月28日には事業が一時停止されました。
 
全国レベルでの再開は少し先にならざるをえない状況の今、この事業をおさらいしておきましょう。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

混乱の原因は、大きく2つ

Go To トラベル事業は、コロナ禍によってヒトの移動(インバウンドも含めて)が大きく制約されて大打撃を受けた観光、交通、宿泊などの分野の需要の回復を図ろうとする経済対策です。
 
もともとの予算で約1.35兆円(経費込み)、その後の予備費からの支出や追加予算まで含めると約2.7兆円もの巨額資金が充てられています。
 
旅行者から見ると、金額や宿泊日数が上限内ならば旅行費用の[50%相当額]が支援(給付)されるものです。例えば定価3万円の旅行商品ならば、旅行費用が1万9500円に割引[35%支援]され、さらに5000円相当の地域共通クーポン[15%支援、1000円未満を四捨五入]が付与されます。(再開後は、各支援内容が段階的に縮減されていくといわれています)
 
巨額予算の一方で、スタート以来さまざまな混乱が続けて発生している状況がいやでも目につきます。その原因は、【図表1】のように大きく2つあるでしょう。
 


 

困っている業界への直接支援の形にしない理由

コロナ禍がまだ危ぶまれる時期にわざわざ人の往来を促すのではなく、大打撃を受けた各産業に対してその分の予算を給付金や補助金の形で直接支援したほうがよいのではないか。そんな意見も数多くあると思います。
 
実は、旅行消費は多くの経済波及効果をもたらします。2018年の旅行消費額は27.4兆円。これによる経済効果は、生産波及55.4兆円、付加価値誘発28.2兆円、雇用誘発441万人との試算が公表されています(※)。
 
先述のように、旅行費用が大きく割引され、さらに地域共通クーポンまでもらえるのは、旅行者にとって確かに魅力的です。割安に旅行できたお客が、クーポン以外に自腹でいろいろとおカネを使う局面も少なくないでしょう。
 
また、旅行業者には支援・給付によって定価どおりの売上が確保され、地域共通クーポンは観光地の現場で飲食、土産品、その他サービスなどで確実に消費されます。
 
このように、政府が困っている産業(各業者さんたち)へ給付金や補助金の形で直接おカネを渡すよりも、旅行者を経由する形にしたほうがより多くのおカネが支出され、さまざまな波及効果が生まれることを期待しているのです。
 

終了後の“反動”も心配

しかしGo To トラベル事業は、今後再開しても予算消化すればいずれ終了する時限的なものです。その間に、本来3万円の旅行が1万9500円で行けるという意識が消費者に染み付くとどうなるのか。
 
価格が本来に戻ったとき、とても割高に感じるかもしれません。この旅行商品の価格価値がいつの間にか1万9500円と意識され、その後の判断基準になりかねません。
 
こうした状況を「アンカリング効果」や「参照価格」といった用語で説明されることがあります。本来の3万円ではなく1万9500円が心の中にいかりを下ろし(アンカリング)たり、購入するかどうかの判断の基準(参照)価格になってしまうわけです。
 
このように「3万円になる(戻る)のだったら行かない」状況のほかに、「Go To トラベルであちこち出掛けたから、旅行はしばらく控える」こともありえます。駆け込み需要を先食いした後にやってくる経済の停滞。消費増税前後で繰り返した様子が再現されるかもしれません。
 

まとめ

Go To トラベル事業の意義や効果は否定できません。多くの人たちが利用することで、関連業界に“カンフル剤”のような効果があった点は評価されると思います。
 
この事業の予算規模は国民が全員利用するならば、ざっくり1人2万円くらいの支援を受けられる計算で、かなりの金額です。しかし実態は、もっと多額の恩恵をすでに受けた人もたくさんいるでしょう。
 
一方、医療や看護等に従事するエッセンシャルワーカーなど、そもそも旅行どころではない人たちや、コロナ禍が心配で旅行する気分にはとてもなれないという人たちが多数いることも、また事実です。
 
やはり、もともとの予算の趣旨どおり、コロナ収束が見通せた後に実施すべきだったとの思いがどうしても付きまといます。
 
[出典](※)観光庁「経済波及効果」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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