更新日: 2021.11.19 その他暮らし

空は飛ばない。もう1つの「LCC」とは?

空は飛ばない。もう1つの「LCC」とは?
言葉の一部を抜き出したものが略語ですが、身の回りにあふれています。
 
例えば「スマートフォン」を「スマホ」と略しても大差がないように思えますが、「Frequently Asked Questions」(よくある質問)が「FAQ」になると、もともとの言葉やその意味を知っていないとちんぷんかんぷんです。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

空を飛ぶ「LCC」

ところで「LCC」(エルシーシー)と聞いて、何が思い浮かぶでしょうか。
 
飛行機を連想する人が多いことでしょう。その場合は「Low Cost Carrier」 (ローコストキャリア)つまり、格安航空会社の意味です。設備投資や運営、そしてサービスも効率化することでコストを抑え、割安な航空運賃を実現しています。
 
以前からある航空会社(「フルサービスキャリア」や「レガシーキャリア」と呼ばれます)に比べると運行する発着空港や便数は限られていて、機内外でのサービスも簡素で限定的です。
 
東京から北海道や沖縄への激安なパックツアーの広告に惹かれて内容を見たら、成田空港発着のLCC便利用だった。そんな記憶のある方も少なくないかもしれません。
 
今年10月には、行き先を選べないくじ形式の商品を5000円で「ガチャ」マシーンから販売したり、1ヶ月乗り放題パスが1万9800円から買える「サブスク」(サブスクリプション)が提供されるといったキャンペーン(※1、※2)も見られました。
 
各社とも、流行や新機軸を取り入れた販売促進にも取り組んでいるようです。
 

もう1つの「LCC」とは

では、もう1つの「LCC」とは何か。「Life Cycle Cost」 (ライフサイクルコスト)という言葉があります。「生涯費用」と訳されることもありますが、商品などを手に入れて使い続け、最終的に廃棄など処分するためにかかるトータルのコストのことです。
 
モノにもよりますが、購入するとき高額で長く使うことになる耐久消費財などでは、その金額がとても大きくなります。その代表格の1つがマイホームなどの建物です。住宅を購入して住み続けていくための費用全体は、「氷山」や「根菜類」に例えられることがあります。
 
表面に見えているところが建物建築費など最初に負担するものだとすると、水面下や地下に隠れているそれ以外の費用のほうがはるかに多額になるということで、【図表1】のようなイメージです(※3)。
 


 
ケース・バイ・ケースですが、水面上の建築費に対して水面下の費用たちはざっと3倍から4倍くらいになるともいわれます。建築費を仮に1800万円とすると、こうした費用たちを加えたLCC全体では7200万円から9000万円という計算になります。
 
つまりマイホームを手に入れた後に、毎年、また大規模修繕などの節目の負担も含めて、この事例ならばさらに5400万円から7200万円のおカネが必要になってくるのです。
 
こうした費用、特に修繕費は、マンションと戸建では見え方やおカネの出し方が違います。マンションでは修繕積立金として予算化して毎月住民(区分所有者)から徴収して積み立てます。そして工事をするときに取り崩して実際に使われます。
 
一方、戸建では実際に工事をするときになってから貯金などで支払いをします。
 
つまり、こうした費用を最初から計画的に「積み立て」するマンションと、対処が必要になったときに「一時金」でその都度対処する戸建。やり方こそ違いますが、長く住み続ける間に大きな費用を負担すること自体は変わらないのです。
 

まとめ

マンションでも戸建でも、分譲の際のパンフレットなどでは、外観などのデザイン性、室内設備(10年くらいで交換が必要になるものも含めて)の充実ぶりを前面にPRするケースは少なくありません。しかし、LCCの視点ではどうでしょうか。
 
建物の躯体(構造体)、外壁、屋根などの材質や耐久性、建物内の断熱や気密の性能など挙げだすときりがありませんが、最初こそ安かったモノが長い目で見るとLCCトータルでは結局高くついてしまった。
 
こうしたことは十分ありえますし、逆に最初は高くてもトータルではリーズナブルに収まる場合だってあるでしょう。
 
マイホームを手に入れることは「ゴール」ではなくて、新しい生活のスタートであるとともに、建物との長い付き合いのスタートラインです。マイホームのほうの「LCC」は、その都度1時間から2時間くらいの接点にとどまる空飛ぶ「LCC」とは、時間軸も含めだいぶ中身が違います。
 
[出典]
(※1)Peach Aviation株式会社(ピーチ・アビエーション)「プレスリリース」~「SNSで話題!行き先を選べないカプセル型自販機『旅くじ』が東京に初上陸!(以下略)」(2021年10月12日)
(※2)Peach Aviation株式会社(ピーチ・アビエーション)「プレスリリース」~「さあ、出かけよう!『Peachホーダイパス』の販売を開始(以下略)」(2021年10月12日)
(※3)国土交通省国土技術政策総合研究所「長持ち住宅の選び方」~「ライフサイクルコスト (LCC)」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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