身近な電気の話㉗ 仕事をするエネルギー・(水の落差・熱の落差)
配信日: 2018.03.03 更新日: 2019.01.11
有効エネルギーは「エクセルギー」とも呼びますが、「エクセルギーの最大化」がエネルギーの効率的利用になるのですね。水力発電と火力発電を例に一緒に考えてみましょう。
Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
水の持つ「位置エネルギー」を「電気エネルギー」に転換
水力発電から話を始めます。水力発電には ①自流式、②貯水池式、③揚水の3種類があります。自流式発電とは、河川の自然な流れを利用した流れ込み式ともいわれる発電方式です。
出水量は一定ではないので電気の出力が不安定です。貯水池式発電は上流に大きなダム(貯水池)を築造して、雨水や雪解け水を大量に貯めておき、下流の発電所で安定した発電をします。自流式に比べ大規模な発電が可能になります。
揚水発電は、電力需要の変動に対応したピーク対応型の発電方式です。
上池ダムと下池ダムを二つ築造し、その間の「落差を利用した発電」方式です。需要の少ない夜間に下池の水を汲み上げて置き、昼間の電力需要の大きい時間帯に発電します。
夜間の電力で水車発電機は逆回転し下池の水をポンプアップしています。電気エネルギーを水の位置エネルギーに変換し上池に貯めているのです。
水力発電は「水の力」を利用しているのですが、水が電気に変わるのではありません。正確には、水の持つ「位置エネルギー」を電気エネルギーに転換するのですね。水の位置エネルギーとは実は「落差」、高低差のことです。
日本は世界でも有数の水力発電国
水力発電所の設置されている場所をご存知ですね、多くのは標高の高い山奥の、急峻な谷あいに巨大なダムがあます。
ここに雨水や降雪を貯めておき、長い導水路を使い下流の発電所に引き込み発電しいています。電気は、高圧の送電線で遠くの消費地まで送られていきます。
水力発電は主に①大きな落差を取れること ②豊かな水量を確保できること―の二つが立地の条件です。ですから、豊富な降水恵まれた山国である日本は世界でも有数の水力発電国です。
世界の国を見てみましょう。水力発電が盛んな国は中国、カナダ、ブラジル、米国、ロシア、ノルウェー、インド、スウェーデン、ベネズエラなどでで、いずれも高い山と豊富な降水に恵まれた国々です。
中央ヨーロッパにはライン川、セーヌ川、ドナウ川など水量豊かな大河がとうとうと流れています。亘長が1230キロメートルもあるライン川は、いくつかの国をめぐり、沿岸には広大な田園が広がっていたり、大都市が建設されていたり、中世の歴史を伝える古城、名城が残されています。
ですが水力発電所は見当たりません。水量が豊富でも、河川に「落差」(高低差)がほとんどないのですね。
水の落差エネルギーを利用
水力発電所は、正確にいうと、水の持つ「位置エネルギー」を利用して発電しています。「水の落差エネルギー」で、水車発電機を回し、位置エネルギーを電気エネルギーに変換しているのです。
ですから、ダムと発電所の間の落差が大きいほど、水量が多いほど、大きな電力が得られるのです。
北アルプスにある黒四ダム・発電所を見てみましょう。長野県と富山県の県境近くの山奥に巨大な黒四ダムを建設し、立山の雪解け水を2億トン貯めることができます。
この水を10キロメートル下流の黒四発電所まで運び、毎秒72トンの水で33.5万㌔ワットの発電をしています。黒四発電所の落差は545,5メートルもあります。揚水発電所をのぞけば国内最高です。大規模なダム式発電所の場合は、落差は400~500メートルです。
位置エネルギーから電気エネルギーを取り出す水力発電は、大きな落差ほど有効エネルギーを活用できるのです。ちなみに、海には大量の水がありますが、海抜ゼロ、落差が得られませんから位置エネルギーを利用できないのです。
降水量や雪解け水などの少ないところで、落差だけに注目して作られた水力発電所が、先ほど紹介した「揚水発電」です。上下二つのダムの間で水を往復利用する水力発電方式です。落差は通常500~700メートルくらいですね。
揚水発電を活用し、需給の安定を
需要の少ない夜間の電気を使って下池の水を上池にポンプアップし、需要の多い昼間に発電するのが一般的な使い方でしたが、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入量増大に対応して活用する方策も検討され始めました。
太陽光発電は、曇天や雨天では発電できませんが、仮に晴天であっても日が沈んでしまえば発電できません。風力発電は昼夜を問わずはつでんできますが、夜間の電力需要の少ない時間帯でも発電します。
ですから、供給過剰の状態になる心配が出てきました。そこで、不安定な再生可能エネルギーの余剰分を吸収する方法として揚水発電を活用し、需給の安定を図ろうというのですね。
位置の持つエネルギー、落差をコツ要するのが水力発電ですが、「熱エネルギーの落差」を利用して発電するのが「火力発電」です。熱落差の有効利用は、省エネルギー生活に直結しています。次回は熱落差と火力発電の仕組みを紹介しましょう。
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト