「出世払いで!」と借りたお金。出世できず「返せ!」と言われ「拒否」 これってあり?
配信日: 2018.03.19 更新日: 2021.06.21
でも、よく考えてみてください。一体何をもって出世したと言えるのでしょうか。そもそも、主人公が出世することができず、いつまでも一文無しのままだったら、借りたお金を返さなくてもよいのでしょうか。
物語の設定上ありえないかもしれませんが、主人公が無気力で、出世する気配も全く見られないと仮定します。
そこにしびれを切らした親父さんがお金を返せと言い出したところ、主人公は「出世払いと言ってくれたじゃないか!」と返済を拒んだ例をもとに、出世払いについて解説していこうと思います。
さぁ、親父さんは無事主人公に貸したお金を返してもらうことができるのでしょうか。それとも主人公の言い分が認められ、出世するまで返済が猶予されるのでしょうか。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
300万円を出世払いで借りた主人公
主人公は浪人の苦労を乗り越え、何とか希望する大学に入学したものの、生活は厳しく、貧乏学生としてギリギリの生活を続けていました。
ある日、近所の親父さんが主人公の生活をみかねて「これからの生活費と学費だ。いつか出世した時にでも返してくれよ!」と300万円を主人公に差し出しました。
主人公は涙を流し「親父さん、申し訳ない。借りた金はいつか出世して必ず返すから。」とお金を受け取りました。
時は流れ、主人公は大学を卒業しました。就職してバリバリ働くかと思いきや「俺はいつか出世して大物になる」と大口をたたくだけで努力もせず、長年その日暮らしのフリーターを続けていました。
最初は主人公を信じて見守っていた親父さんにも我慢の限界が訪れました。
親父さんは主人公に対し「いい加減にしろ!いつまでこんな生活を続ける気なんだ。もう貸したお金は返してくれ!」と言ったところ、主人公は「待ってくれ、あの金は出世払いで借りたものだ!俺はまだ出世していない。だから返せない。」とお金の返済を拒んできました。
「出世払いで!」の出世は期限にあたります
お金を借りた時、通常は何らかの条件や期限の到来した時点で返済することになります。例えば、学校を卒業したら、という条件や、来年の1月になったら、といった期限などです。
そこで、ある問題が生じます。
「出世払い」の「出世」は条件にあたるのか。それとも、「出世」という期限にあたるのか。という問題です。
もし、条件であるとするのなら「出世」という条件が実るまではお金を返す必要はなく、主人公の言い分通り、このまま出世するまではお金を返す必要はなくなります。
逆に、「出世」という期限だと考えるのであれば、出世した時、あるいは出世する見込みのなくなった時にお金を返す必要が出てきます。
このように、条件とするのか、それとも期限と解するのかによって、全く異なる結論が導き出されることになります。
それについて判例は、出世払いは期限(厳密には不確定期限と言います。)だという結論を導き出しています。
つまり、「出世払いで」と言って借りたお金は、出世した時、あるいは出世の見込みがなくなってしまった時に返済期限が到来するのです。
とするのであれば、長い間出世の見込みもなく、本人にその気もないであろう主人公は、親父さんからの返済請求を拒むことはできない。ということになります。
ただし、条件と解したとしても、個別の事情によってはお金の返済が猶予されることもあります。
無用なトラブルを避けるためにも、安易な気持ちで「出世払いで!」と言ってしまわないようにしましょう。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士・2級ファイナンシャルプランナー