しっかり見てる? 賃金のセーフティーネットとなる「最低賃金制度」とは
配信日: 2022.05.25
今回は最低賃金制度で決められている最低賃金の種類や、対象になる賃金、最低賃金制度を守らない場合の罰則などを解説します。
執筆者:棚田将史(たなだ まさふみ)
2級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員1種
最低賃金制度について
最低賃金制度とは、事業者(使用者)が労働者に対して支払うべき賃金の最低保証額を定めた制度です。
仮に事業者と労働者の合意の上で最低賃金額未満の雇用契約を結んだとしても、最低賃金法において無効となり、最低賃金額と同額の契約をしたものとみなされます。
最低賃金の種類は、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2つです。2つとも適用対象になる場合は、高いほうの金額が優先されます。なお派遣労働者の方は、派遣元ではなく派遣先の仕事場の最低賃金を適用します。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、地域の生計費・賃金・事業の賃金支払い能力などを考慮して、都道府県ごとに決められている最低賃金額です。
最低賃金審議会(地域の実態や調査結果を基に最低賃金を話し合う組織)の意見を踏まえて、都道府県労働局長が決定します。原則は、毎年10月に改定結果が適用されます。
厚生労働省「令和3年度地域別最低賃金改定状況」によると、最高額は東京都の1041円/時、全国平均は930円/時です。お住まいの都道府県の最低賃金は、都道府県や厚生労働省の公式ホームページで確認できます。
特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金とは、「地域別最低賃金よりも高い金額を設定すべき」と判断された産業ごとに設定された最低賃金額です。特定の産業の賃金を上げることで、当該産業やその産業に関わる企業で働くメリットを提供しています。
2022年4月時点での特定最低賃金の例を、図表1にていくつかまとめました。
【図表1】
※出典:厚生労働省「令和3年度特定最低賃金の審議・決定状況」より筆者作成
最低賃金の対象にならない賃金
最低賃金の対象になるのは、毎月支払われる基本給や手当(所定時間外の労働で発生する手当は除く)です。次に挙げたものは、最低賃金の対象になりません。
・臨時収入
・3ヶ月分のボーナスなど1ヶ月を超える期間ごとに支払われるもの
・残業代、休日出勤手当、深夜手当などの所定外給与
・通勤手当、家族手当、精皆勤手当
【図表2】
※出典:厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
制度の対象者と最低賃金の減額の特例
最低賃金制度の対象になるのは、原則として労働基準法の対象となる全ての労働者です。雇用形態などは問わず、アルバイト・パート・臨時雇用の方も全員が対象になります。
ただし、諸事情で一般的な労働力を発揮するのが難しい立場の方だと、最低賃金制度はむしろ雇用機会を減らす可能性があります。事業者は同じ賃金なら、一般的な労働力を持つ人を優先して雇用する傾向があるためです。
そこで最低賃金法第7条では、最低賃金未満の条件を認める減額の特例が定められています。特例の対象者は次の通りです。
・心身の障害によって著しく労働力が低い方
・試の試用期間中の方
・法律で定める職業訓練のうち、職業に必要なスキルなどの習得を目的としたもので賃金が発生するものに従事する方
・軽易な業務に従事する方
・断続的労働に従事する方
減額の割合は、厚生労働省令で定める率に基づいて決定されます。施行規則の減額率の表を図表3として引用します。
【図表3】
※出典: e-Gov法令検索「最低賃金法施行規則」
なお事業者が減額の特例を適用する際には、都道府県労働局長の許可が必要です。
最低賃金制度に違反していたときの罰則
もし事業者が最低賃金制度に違反して、支払う賃金を不当に減らしていた場合、以下の罰則が科せられる可能性があります。
・地域別最低賃金の適用者へ基準未満の賃金しか支払わないケース:50万円以下の罰金
・特定最低賃金の適用者に、地域別最低賃金未満の賃金しか支払わないケース:50万円以下の罰金
・特定最低賃金の適用者に、特定最低賃金未満の賃金しか支払わないケース:30万円以下の罰金
万が一、勤め先が制度よりも低い賃金設定となっている場合は、労働基準監督署や都道府県の総合労働相談の窓口へ相談してみてください。
出典
e-Gov法令検索 最低賃金法
厚生労働省 最低賃金制度とは
厚生労働省 ポイント! 最低賃金|最低賃金の種類は?
厚生労働省 最低賃金について教えてください。また、最低賃金にはどのようなものがありますか。
e-Gov法令検索 最低賃金法施行規則
厚生労働省 令和3年度地域別最低賃金改定状況
執筆者:棚田将史
2級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員1種