更新日: 2019.01.10 その他暮らし
私も逮捕や罰金?お酒を飲んだ先輩に車で送ってもらったらどうなる
食事の後、車で来た友達や知り合いにそう声をかけられたら、「えっいいんですか?」と喜んで返事をしてしまいますよね。
「あれ…この人さっきお酒飲んでたよな…」そんなことが一瞬脳裏をかすめても、まあ大丈夫かと車に乗り込んでしまうことがあるかもしれません。
しかし、軽い気持ちでやってしまいそうなこの行為、リスクは決して軽いものではありません。
Text:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
ファイナンシャルプランナー
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弁護士/東京桜橋法律事務所
第二東京弁護士会所属。
中央大学法学部卒。弁護士登録後、東京桜橋法律事務所に勤務。平成25年以降は同所パートナー弁護士に昇格し、主にIT関連、エンタメ関連の企業法務を中心として、相続・不動産・債権回収・破産など幅広い法律事務に対応している。
座右の銘は「強くなければ生きられない。優しくなれなければ生きていく資格はない。」時には、クライアント自身の姿勢を問うようなアドバイスができるよう心掛けている。
目次
サークルの飲み会の帰り、先輩のKさんの車で送ってもらうことに
大学生のY美さんは、サークルの飲み会に参加しました。みんなほろ酔い状態の中、一番飲んだはずの先輩のKさんは涼しい顔をしています。
「女子は俺が送っていくよ、みんな乗って」
KさんはY美さんをはじめとした後輩の女子たちに声をかけました。
「いいんですかぁ~?それなら遠慮なく乗っちゃお」
友人2人がきゃっきゃと車に乗り込みます。
えっこれって酒酔い運転じゃ…Y美さんはちゅうちょしましたが、そんなY美さんを見てKさんが耳打ちしました。
「大丈夫、いつも通り運転できるよ」
Y美さんはKさんの堂々とした態度を見て、「まあ距離も近いし」と同乗させてもらうことにしました。
路地裏に白バイが…同乗していたY美さんたちまで罪に?
Kさんが車をしばらく走らせていた時のことです。
「うわ、前の方、検問されてるかも」
Kさんの発言にY美さんたちは驚きました。「どうするの、やばいじゃん!」女子3人が騒ぐ中、Kさんはすぐに道を曲がって細い路地へと逃げ込みました。しかし、路地の奥では白バイが待ち伏せしています。
「ちょっと止まって」
声をかけられると、Kさんは観念して車を止めました。あれよあれよと警察による呼気検査が行われ、Kさんは「酒気帯び運転」と判断されました。
その間、Y美さんは白い顔をしていましたが、隣の友人が「私たちは同乗していただけだから大丈夫だよ」と言ったので、少し安心しました。
ところが、Y美さんたちが警察官からかけられた言葉は予想外のものでした。
「あなたたちも罪に問われる可能性があります」
「な…なんでですか!?」
Y美さんはやっぱり乗らなければよかったという後悔の気持ちでいっぱいになりました。
注)本ケースは皆さまの理解の一助となるようフィクションで書かれています。
運転手がお酒を飲んでいることを知りつつ車に同乗した場合、同乗者はどんな刑罰を受ける可能性があるのでしょうか。東京桜橋法律事務所の池田理明弁護士にお伺いしました。
飲酒運転は、酒気帯び運転か酒酔い運転の基準に該当すれば道路交通法上の刑罰がありますが、その車両の同乗者にも、刑罰があります。これを飲酒運転同乗罪と言います。
道路交通法上の酒気帯び運転には、狭義の「酒気帯び運転」(呼気1リットル中のアルコール濃度0.15ミリグラム以上0.25ミリグラム未満)と「酒酔い運転」(呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上)があり、それぞれ懲役刑や罰金が科されています。
また、道路交通法は、「何人も、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。」としており、「酒気帯び運転」や「酒酔い運転」の同乗者にも懲役刑や罰金刑が科されています。
それでは、この条文のうち「自己を運送することを依頼して」というのは、どのような場合でしょうか。
この点、飲酒運転同乗者にも刑事罰が科されることになった立法の理由は、主に“運転者の飲酒運転の意思を強固にして飲酒運転が助長されるのを防止するため”であると言われています。
この理由から、「運転者に誘われて、単にこれを承諾するだけ」では、「自己を運送することを依頼して」とは言えず、飲酒運転同乗罪に当たらないとされています。
ですので、例えば、一緒に飲酒していた怖い先輩から「おい、乗ってけよ!」などと言われて仕方なく同乗したような場合は、飲酒運転同乗罪に該当しないと判断される可能性が高いでしょう。
ただ、同乗者は、同乗することで運送される便宜を自ら享受している立場です。先輩が自ら「依頼されていないけど私が“乗ってけよ!”と言いました。」と警察で説明してくれれば大丈夫かも知れませんが、酒に酔った先輩も何を言い出すか分かりません。
「運転者に誘われて、単にこれを承諾しただけ」なら処罰されないとは言うものの、事実上は、飲酒運転同乗罪の成立をかなり疑われることになるでしょう。
本件の事例に話を戻しますが、先輩のKさんは「女子は俺が送っていくよ、みんな乗って」と言っていますので、怖い先輩の事例と近いとも思えます。
しかし、Y美さんの友人2人は、その申し出に対して「いいんですかぁ~?それなら遠慮なく乗っちゃお」などと言い、きゃっきゃと車に乗り込んでいます。
ここまで積極的に先輩のKさんの車に同乗しており、十分に運転者の飲酒運転の意思を強固にする行動をとっていますので、「自己を運送することを依頼した」ものであると言えそうです。
客観的に見て、運転者に誘われて単に承諾しただけだったと言い切れる事例は多くないと思われます。運転者が飲酒していると知っている場合は、決して同乗しないことが大切ですし、そもそも、運転自体を止めさせるべきです。
周りの空気に流されず、してはいけないことを拒否する強い意志を持とう
若い時はしてはいけないと分かっていても、周りの空気に流されてしまいがちです。
しかし、「一時のノリ」を優先したことで取り返しのつかないことが起きてしまう例は少なくありません。運転手が飲酒運転で人にけがをさせたり命を奪ってしまえば、同乗者も刑罰が重くなるばかりか、大切なものを奪ったという十字架を一生背負うことになります。
「これはしてはいけないんじゃないか」という状況になったら、勇気を出して意見してみましょう。もしそれで周りを説得できなかったとしても、自分だけは拒否する強い意志を持つことが大事です。
Text:ファイナンシャル フィールド編集部
監修:池田 理明 (いけだ みちあき)弁護士
東京桜橋法律事務所、第二東京弁護士会所属 http://tksb.jp/
IT関連・エンタメ関連の企業法務を中心に、相続・不動産・債権回収・破産など幅広い法律事務に対応