大学4年間借りた「奨学金」を勤め先が代わりに返済してくれる!「代理返還制度」とは?
配信日: 2023.05.25 更新日: 2023.05.26
この制度は比較的新しく、まだそこまで知名度のない制度です。奨学金を借りている学生や現在返済中の方に向け、奨学金の代理返還制度について解説していきます。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
代理返還制度の概要
独立行政法人日本学生支援機構の奨学金における代理返還制度とは、正式名称を「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」と言います(以下代理返還制度とします)。
奨学金には無利子の第一種と、有利子の第二種とがありますが、どちらも卒業後に働いて得た給与から毎月返還していくことになります。給与から税金や社会保険料を支払い、残ったお金から奨学金を返還していくことの負担は決して小さくはありません。
そこで、2021年4月からスタートしたのが「代理返還制度」です。この制度によれば、奨学金の返還をしている方に代わり、その方が就労している企業が代理で直接奨学金を返還するものになります。
以前は、企業が奨学金の返済分相当額を従業員に給与として支給し、従業員が支払うという形の制度でしたが、その流れを経ずシンプルに企業が代理返還できるようになりました。
図表1
出典:独立行政法人日本学生支援機構 企業の奨学金返還支援(代理返還)への対応
代理返還制度のメリットは?
仮に代理返還制度を利用することなく企業が奨学金の返還用のお金を給与に上乗せ支給した場合、それは給与として課税されます。
代理返還制度における最大のメリットは、企業が代理返還する分が非課税扱いとなる点です。それによって、所得税や住民税が安くなります。また、社会保険料の算定の基礎となる標準報酬月額にも含まれないため、健康保険料や厚生年金保険料が安くなる可能性もあります。
例えば、年収350万円(毎月の給与は賞与除き奨学金返済分の支給込みで23万円)で、所得税5%、住民税10%の方が、仮に1万4000円を給与として支給ではなく、企業に代理返還してもらったとしましょう。その場合、年間で軽減される所得税は8400円、住民税は1万6800円、合計で2万5200円にも達します。
また、代理返還前の厚生年金保険料は2万1960円、健康保険料は1万2000円です。(介護保険については考慮しない。)
それが代理返還されると、厚生年金保険料は2万130円、健康保険料は1万1000円となります。年間で削減できる額は3万3960円になります。年間で削減できる額はおよそ6万円となり、大きな節税効果を受けることができます。
それに加えて、代理返還制度では、企業が返済金の貸与を受けていた方に代わって直接返済します。そのため、「奨学金の返還の口座にお金を入れないと…」や「今月も返還のお金を残しておかないと…」など返済について心配する必要がなくなります。
このように、税と社会保険料、そして返還にかかる手間の負担軽減が代理返還のメリットです。
見た目上、奨学金の返済分相当額を給与として支給されていたときより、給与の支給額は少なくなりますが、節税できる分、実質的に自由になるお金は増えることになります。
代理返還はすべての企業で行われているわけではない
残念ながら、すべての企業で代理返還制度が利用されているわけではありません。なぜなら、代理返還を行うには企業において一定の手続きなど手間が生じるからです。
図表2
出典:独立行政法人日本学生支援機構 企業の奨学金返還支援(代理返還)への対応
単に毎月本人に代わってお金を払うというだけではないのです。また、本制度自体がそこまで企業側に知られていないという面もあります。
もし、代理返還制度が行われている企業で働きたいと考えるのであれば、独立行政法人日本学生支援機構のホームページを確認してみてください。業種ごとに本制度を利用している企業が列記されています。
ただし、すべての企業がそこに記載されているわけではないため、気になっている企業があれば個人的に求人ページで確認するなど調査する必要があるでしょう。
また、実際に代理返還制度を利用するには、企業の募集する支援条件に合致する必要があります。制度が導入されている企業に入社すれば必ず代理返還制度が利用できるわけではない点にもご注意ください。
まとめ
奨学金には代理返還制度というものがあり、この制度を利用することで奨学金を借りた本人に代わり企業が奨学金を返済してくれます。奨学金の返済額は税金や社会保険料がかからないため、本人の税金などの負担も小さくなります。
ただし、代理返還制度が導入されている企業はごく少数で誰でも利用できるというものでもありません。代理返還制度に興味があれば、日本学生支援機構のホームページを確認し、導入企業を探して就職活動や転職活動をしてみてください。
出典
独立行政法人日本学生支援機構 企業の奨学金返還支援(代理返還)への対応
※2023/5/26 記事を一部修正いたしました。
執筆者:柘植輝
行政書士