増えつつある「フリーランス」という働き方を考える。自由の反面リスクも
配信日: 2019.02.12 更新日: 2019.06.28
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
フリーランスが増えている
インターネットの普及により、ネット経由の仕事を請け負う方も増えてきました。「ギグエコノミー」(インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態のこと)なる言葉もでてきたようです。
私もフリーランスとなっておよそ20年が経過しましたが、その中でも、お会いしたことのない方からメールをいただき、単発の依頼をお受けすることも少なくありません。執筆などの自分だけで完結するような仕事であれば、担当者と全く面識のないまま仕事が完了し、報酬が振り込まれるということすらあります。
会社に勤務する場合は、あらかじめ会社と労働契約を締結します。その中で勤務条件や賃金など、仕事をしていく上での条件を決定します。ただ、フリーランスの場合、ちゃんとした取り決めをせず、メールなどでやり取りをしてすぐに仕事に取り掛かってしまうと、あとで問題が発生することもあるかもしれません。
仕事を終えて報酬をもらう時に、でき上がりのイメージが担当者とは異なることが判明したり、そもそも終わるまで報酬を知らなかったりした、ということもありえます。
法の整備で変わる大きなポイント
安倍政権の「働き方改革」中の一つに「柔軟な働き方がしやすい環境整備」がありますが、フリーランスなどの個人事業者の働き方も視野に入っているようです。実際フリーランスのための関連法案が整備されると、何が変わってくるのでしょうか。まず、大きな点は、フリーランスに労災が適用される点でしょう。
会社に勤めている人は、様々な公的保険に加入しています。
労災は通勤の行き帰り、業務中の事故や怪我などに対応。雇用保険は失業した際や職業訓練の際に。健康保険は仕事以外でのケガや病気。国民年金の上乗せである厚生年金保険。いずれも会社が負担する保険料分があるため、自分で全額支払わなければならないフリーランスよりも負担の軽減が図られています。
一方、フリーランスの場合、ケガや病気など不測の事態への備えが少ないため、自分で別途備えることが必要です。仕事中に車で事故を起こして、休業せざるを得ない事態になったとしても、別途保険に加入していなければ、その間は無収入となるわけです。
会社勤務者とフリーランスの手取りで比較してみる
一例として、月収30万円で働いているとしましょう。副業がいつの間にか月30万円程度の収入が得られるほどになったので会社を退職すると、どんな手取りとなるのでしょう。
以下の表のようになります(30歳の専業主婦の妻と1歳の子どもがいると想定)。手取りがフリーランスの方が少なくなるだけではなく、傷病手当金などの給付がないために、就業補償保険の保険料や年金上乗せのための保険を考えると、さらに手取りは減ることとなるでしょう。
※国民年金は専業主婦の奥様と2人分の保険料(横浜市の国民健康保険に加入したとき)。国民年金保険料は2人分です。
法的保護は確かに歓迎すべきですが、労災保険料も自分で支払うこととなるでしょうから、負担が大きくなるのは変わらないでしょう。
ネットで仕事をするフリーランスを目指していたとしても、勤務していたときには会社がしてくれた手続きや負担軽減など、全てのリスクは自分で負担することをしっかりと覚悟しておくといいでしょう。普段から口頭でなく書面で契約をするなど、自分でしっかりとした知識と計画を持つことを大事にしてください。
ネットがあれば働けるということは手軽である反面、片手間にやる「下請け」のような形態もあり、単なる人件費削減と捉えられる可能性もあります。業務ごとに「最低報酬」を定めるとの報道もありましたが、様々な業種があり、徹底されることはないのではないでしょうか。
年の初め、将来は独立することを心に決めた方、まずは独立する場合のお金の流れを知識として理解することから始めるといいでしょう。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。