更新日: 2019.06.28 その他暮らし

現在志向バイアスによる負の心理効果を発動させないために大切なこと

現在志向バイアスによる負の心理効果を発動させないために大切なこと
わたしたちファイナンシャルプランナーは、相談者様のお金に関する相談に応じた解決策を提案することが仕事です。そうするためには、お金に関する知識の更新を続けることが必要です。また、相談者様によって価値観や考え方は異なるので、お金に関する心理についても学んでいます。
 
今回は、そのうちの一つである“現在志向バイアス”と呼ばれる心理学用語についてお伝えします。
 
三浦雅也

執筆者:三浦雅也(みうら まさや)

酒井FP綜合事務所/お金工房わなび所属

2級FP技能士、AFP(日本FP協会認定)
「お金のことをもっと身近に感じてほしい!」をモットーに、“手帳”を使った人生設計の方法や、知っててよかったお金の話セミナーをはじめ、年間50回以上の講演を行う。

専門用語を使わないわかりやすい説明を心がけている。
http://www.fp-sakai.com

そもそも現在志向バイアスとは

『現在志向バイアス』とは、未来の利益よりも、目先の利益を追求してしまう心理のことです。
 
例えば、こんな経験はありませんか?
・ダイエットをしないといけないと思っているのに、目の前にケーキがあると食べてしまう
・今月から支出をおさえて貯蓄をしようと思っているのに、欲しいものをつい買ってしまった
・勉強したいことがたくさんあるのに、目先の仕事や同僚との付き合いを優先してしまう

 
…など、思い当たる人はかなり多いはずです。
 
多くの人は「目的を達成できたほうがいい!」と頭のなかでは理解しているのですが、本能的にラクな行動を選択してしまうので、本当に行動を起こさなければまずい状況になるまで目的を達成できないのです。
 
この『現在志向バイアス』は、わたしたちの日々の行動についてだけではなく、お金の使い方にも影響を及ぼします。
 

すぐにもらえる10万円と1年後にもらえる15万円

また、もしあなたがお金をもらえるとして、「いま10万円をもらうか、来年15万円をもらうかを選択できる」場合に、どちらを選ぶでしょうか。
 
結論から申しますと、多くの人が「いま10万円をもらう」ことを選択してしまいます。来年本当にもらえるか不確定である15万円よりも、いま確実にもらえる10万円を優先してしまうからです。このことを心理学用語で『確実志向バイアス』と言います。
 
ということは、わたしたちは他のさまざまな場面においても、お金に対して同じような心理を抱いてしまうことが多い、ということが言えます。
 
日本経済が不景気(よくなってきたと思う人もいるでしょうか)と呼ばれる要因には、この『現在志向バイアス』と『確実志向バイアス』が関係しているとみて間違いないでしょう。
 
バブル経済の破綻やリーマンショックを経験している人にとっては、仮にいま使えるお金があるとしても、将来お金をもらえるという確信がないので、お金を使うことよりもお金を使わないほうが安心できるということが予測されます。
 
また、わたしは以前より、貯蓄をするよりも投資をしたほうがお金を生み出す力が強いと考えています。しかし、投資でお金を動かすリスクよりも、お金の動きが非常に少ない貯蓄に価値を感じる人のほうが多いのは、やはりこれらの心理が関わっているのではないでしょうか。
 

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現在志向バイアスによる負の心理効果を発動させないために大切なこと

では、この現在志向バイアスにおける、負の心理効果を発動させないためにはどうすればよいのでしょうか。
 
敬愛大学の和田良子氏は、学生に『期日までにレポートを提出すればゼミに参加しなくともよいが、もし期日までにレポートを提出できなければゼミの当日にレポートを仕上げてもらう』と告げることで、現在志向バイアスについての実験を行いました。
 
その結果、普段からまじめな生徒ほど、期日より早い期間でレポートを提出する傾向がみられたようです。
 
そして、和田良子氏は論文によって、以下のような結論を出しました。

“この実験から分かったことの1つは、―中略)極めて現在バイアスが高くても、そのことを知っているものが賢い個人と定義されることである。これは、経済学での定義としては正しいかもしれないが、一般的な生活のなかではそのような人が賢いと定義されるかどうかは定かではない。例えば、自分は必ず遅刻することを知っている人間は、それを知っていても、結局遅刻することにはかわりなく、社会的にそれほど賢いと思われない”

※1より引用
 
つまり、現在志向バイアスを経済学的にみた場合の解決策として最も有効なことは、現在志向バイアスの存在を知っていることだということです。
 
わたしたちはつい目先の利益を優先してしまい、遠い未来のさらなる利益を敬遠してしまいがちです。でも、そのことを知っているだけで、「この場合に最も賢い選択はどうすることだろうか」と自分を俯瞰することができるのです。
 

目先の利益をみるのではなく、もっと先の未来を見据えてお金を使うこと

「分かっちゃいるけどやめられない」というのがいわゆる現在志向バイアスの特徴を捉えた言葉ですが、そうならないためには、ある程度の制約を設けることも対策として有効です。
 
先ほどの例でいうならば、
・ダイエットをしたいと思っているなら、ジムに入会してお金を支払うことで制約を設ける
・今月から支出をおさえて貯蓄をしたいと考えているなら、口座引き落としができるような貯蓄をする
・勉強したいことがあるなら、資格講座や英会話教室に申し込むことでやらざるをえない状況をつくる

 
このようなことは、『現在志向バイアス』を知っているからこそできる有効な対策です。
 
投資という言葉には時間を味方にすることで“小さなお金を動かして大きなお金を生み出す”という意味もあります。同じように、現在バイアスを知り、有効な対策を設けることで、“いまの自分を動かしてさらに成長した自分を生み出す”ことができるかもしれません。
 
現在志向バイアスの特徴を知り、明日から新しい第一歩を踏み出していただければ幸いです。
 
出典
※1 CiNii Articles『現在バイアスの存在と異時点間のセルフ・コントロール問題を扱うモデルの実験による検証』
 
執筆者:中西雅也(なかにし まさや)
酒井FP綜合事務所/お金工房わなび所属
 

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