更新日: 2019.06.19 その他暮らし
VPPってご存知?仮想発電所ってどんな発電所なの!?
バーチャルですから、もちろん見ることはできません。見えない発電所はどこにあるのでしょう。探ってみましょうか。
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
電力需給に対する考え方が変わった
従来の電力供給システムは、企業や家庭の需要を前提に組み立てられていて、火力や水力のような大型発電所(集中発電所)で、安定した電気を供給してきました。電力会社が刻々と変化する需要に合わせて、発電機で自動的に出力を調整して高品質な電気を供給する、「需要優先型の供給システム」を提供してきました。
ところが、原子力や火力などの大型電源が被災し発電できなくなってしまった東日本大震災。この突然の電力需給のひっ迫を契機にして、電力需給バランス確保に対する考え方が大きく変わってきました。「供給側だけでなく需要側も参加した新たなエネルギー管理(電力需給管理)システム」に変ようとの認識が広まってきました。
再生可能エネルギーの難点を知って活用する
エネルギーを取り巻く情勢の変化が、認識の変化を後押ししました。震災後、脱炭素の追い風を受けて太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの導入が急速に拡大しました。
さらに、私たちの周辺には電気自動車(バッテリー)、蓄電池、コージェネ(熱・電併給)システム、ヒートポンプ蓄熱空調、太陽光発電・蓄電池、自家発電などが新たなエネルギー設備が急速に普及し始めました。省エネ効果や脱炭素効果も期待されており、新たなエネルギーリソースとして評価されるようになりました。これら電力関連設備、自由化以前は「電力需要設備」と見なされていました。
ところが、電力会社の送配電線(継投電力)に接続されたこれらの分散型エネルギーリソースは、需要設備ではありますが、同時に供給力にも変身できる機能も持っています。ここがポイントです。
例えば、充電・放電可能な蓄電池は、非常災害時以外は、使われないままで、能力を持て余していました。電気自動車のバッテリーもそうですね。クルマを走らせているとき以外は、スリープ状態です。使い方を工夫すれば、駐車中も放電し、有料で電力供給に役立つのですね。
また、太陽光発電や風力発電は、条件が整えばクリーンな供給設備ですが、悪天候になると、不足分を過料発電に頼る需要設備になってします。火力などの応援が必要です。発電量を制御できないのが再エネ電源の難点です。こうした設備の難点も発想を変えれば、「電力需給の調整力」として活用できるぞ、これがVPP事業発想の背景です。
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VPPはどこが運営している?
VPP事業を運営するのは「アグリゲーター」(AG)と呼ぶ専門事業者です。電力会社ではありません。AGは散在するエネルギーリソース(電力資源設備)をIoT(ものインターネット)技術で連系しネットワークを構築し、統合的に制御可能なVPPシステムを運用する事業者です。
AGの取引先は、一般送配電事業者(地域電力会社)、小売電気事業者、小規模発電事業者(太陽光発電事業者など)、エネルギーリソースを所有する電力需要家です。変動する電力需要に過不足が生じた場合、これら顧客を相手に、発電量や需要量など調整電力の取引(売り買い)をします。
これまでは需給調整は電力会社の仕事(供給義務)でした、電力自由化により、これからはAGが需給のしわ取り役をする時代になりました。
例えば、夏の電力ピーク時。電力会社から急きょ、電力が足りない調整電力が欲しいとの要請を受けたAGは、蓄電池や自動車のバッテリーの供給力を集めて調整電力を電力会社に渡します。同時に大きな工場などと交渉し、不要不急の需要を抑制し「ネガワット」(供給力と見なす抑制需要)として電力会社に渡します。
春、秋の電力の低需要期に太陽光発電に余剰電力が出ると、AGは蓄電池をフル活用して需要を創出し電力会社に供給します。そうすれば、太陽光の発電量を抑制せずに、運転を続けられます。需要家は安い料金で充電できます、発電事業者も蓄電池需要家にも経済的で一石二鳥です。
VPPを事業化
VPP事業は実証試験の段階で、事業化していません。これからです。先進事例を紹介しましょう。VPPを使って都市防災型モデル事業を展開している横浜市の場合を見て見ましょう。
「横浜型VPP」の事業化に取り組んできたのは横浜市、東京電力エナジーパートナー(EP)、東芝の3者です。狙いは、VPPを活用した地域防災対策の強化です。そこで28~29年度の2年間、横浜市が地域防災拠点に指定している市内の小中学校(18区、36校)に蓄電池を設置して事業化の実証試験をおこないました。
平常時と非常時の蓄電池の機能の使い分けや制御技術の検証、事業化の評価を行うことにしました。その結果、良好な結果が得られたため30年度から「横浜型VPP」を本格的に導入することになりました。
横浜型VPPの運用に関する基本的な考え方は、
(1)[平常時]には小中学校設置された蓄電池(約10~15kWh)に、事業維持に必要な最低3kWh程度の電力量を確保したうえで、デマンドレスポンス(DR)、ピークカットを含む蓄電池のVPP運用を図る。
(2)[非常時]には蓄電池の電力を防災行政無線や避難者リスト作成用パソコンの電源に活用する。太陽光発電がある場合は、蓄電池と連系させて運用する。
というものです。
30年度からは対象校を市内全域の約450校に拡大し、その他公共施設にも蓄電池を設置し、横浜型VPPを事業展開していくことにしています。
30年度は、さらに「公用車EV(電気自動車)を活用したV2X事業」について、事業化検証を行うことにしています。公用車活用VPP、大いに注目ですね。
車のバッテリーから外部の電力設備へ給電することを総称して「V2X」(Vehicle to X)と呼んでいます。X事業の内訳は、V2H(H:Home)、V2B(B:Building)、V2G(G:Grid)などがあります。V2Gとは、平常時は太陽光など再エネ電力を公用車EVに給電(充電)し、これを電力需要のピーク時に電力系統の調整電力として活用する活用法です。電気自動車と再エネのコラボレーションです。
東北電力と仙台市も防災型VPPの事業化計画を進めています。数十台の電気自動車をIoT技術でネットワーク化し、地域の電力供給に役立てることにしています。
また、市内の25小学校(避難所)に設置した蓄電池と再エネ電力、電気自動車を活用し、普段は系統電力の調整力を提供し、非常時には地域電源として活用する防災VPPの運用を図ることにしています。
VPPの事業化については、経済産業省が旗振り役をし、全国で6つのVPP事業実証試験プロジェクトが進んでおり、順次事業化を目指しています。
今年は夏場の電力ピーク時の電力不足時、あるいは夏場に好天が続き太陽光発電の電力余剰が出たときなどに、VPPあるいはデマンドレスポンス(DR)などのニュースに接するかもしれませんね。VPP事業の拡大により、再エネ導入が拡大するかも知れません。
執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト