身近な電気の話 電気自動車は、古い?新しい?

配信日: 2017.09.13 更新日: 2019.01.08

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身近な電気の話  電気自動車は、古い?新しい?
電気自動車は「これから普及していく次世代の自動車」だと思っている人が多いと思いますが、実は、その歴史は古いのです。いつか来た道のような気がしています。およそ100年ぶりに主役復活を目指す電気自動車の技術開発は、いま猛スピードで進んでいます。そんな中、究極の電気自動車を目指して、画期的な技術がこのほど日本で実証されました。車輪に内蔵されたモーター(インホイールモーター)に走行中の道路からワイアレス直接給電するという夢の技術の走行実験に日本の大学と企業が世界で初めて成功しました。
藤森禮一郎

執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックで電気自動車を本格導入

 

いくつかある次世代自動車の中で、電気自動車(EV、PHV)はCO2排出削減効果が大きく、災害時には非常用電源として活用できるなどから、従来のガソリン車にはない新しい価値が期待されるクルマです。東京都は2020年の東京オリンピック・パラリンピックで電気自動車を本格的に導入することにしています。街中に電気自動車が走っているのをよく見かけるようになりました。「パリ協定」をキッカケに世界国々が相次いで電気自動車に大きく舵を切り足並みがそろってきました。

政府も電気自動車の実用化に本腰を入れています。「日本再興戦略改定2015」(2016年閣議決定)の中で、「2030年までに新車販売における次世代自動車の割合を5割から7割とすることを目標とする」ことにし、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)については20~30%を目標にしています。この目標は政府のエネルギー基本計画に組み入れているほか、CO2削減を目指す国際的枠組み「パリ協定」の実現に向けた国際公約にも掲げています。

 

本格的電気自動車の登場までにはたくさんの課題も

 

電気自動車に取り組んできた日・米とは距離を置いてディーゼル車開発に軸足を置いてきたドイツも、フォルクスワーゲンによるディーゼルエンジンの不正プログラム問題で大きなダメージを受け販売不振が続き今年の春、電気自動車へと舵を切りました。フランス、イギリスが続いています。巨大市場として期待される中国も大気汚染対策として電気自動車に大きな期待を寄せています。大きな潮目の変化が市場には見られます。

そうはいってもガソリン車をしのぐ本格的電気自動車の登場までにはたくさんの課題もあります。例えば航続距離、コスト、電池寿命、充電インフラの整備―などです。この中で最大のテーマの航続距離問題を解決する手段として期待されているのが「ワイアレス給電システム」です。

東京大学大学院、東洋電機製造、日本精工による研究グループがこのほど走行実験に成功した「走行中給電システム」は、道路を走行する電気自動車のインホイール(車輪内蔵)モーターに直接ワイアレス給電する画期的な技術です。道路から車体に給電するワイアレス給電はほぼ実証されていますが、独立したインホイールモーターに路上から走行中に直接ワイアレス給電する技術実証は世界で初めてです。これは朗報です。完全なワイアレス化が実現したことにより従来法に比べ給電効率が向上するだけでなく車体とモーター間のケーブル切断リスクもなくなるということです。

 

新しい電気自動車に期待は膨らむ

 

実用化には、高性能のリチウムイオンキャパシタ〈ワイアレス受電装置〉の開発と内蔵法、インホイールモーター4輪を制御する高度なエネルギーマネジメント技術などが必要ですから私たちが運転できるようになるまでにはもう少し時間が必要です。ワイアレス給電の電気自動車に当然、最新のAI技術が搭載されると思います。どんなコンセプトカーが登場してくるのでしょうか。楽しみですね、ワクワクします。
インフラ整備にも期待が集まります。高速道路や自動車道だけでなく主要な道路には車に電気を送る伝送装置が埋め込まれることになります。都市部の駐車場や集客力のあるスーパーやコンビニ、ホテル、ゴルフ場等などの駐車場では「ワイアレス給電可」が当たり前になるかも知れません。

時代を100年ほど遡ってみましょう

 

突然ですが、自動車開発の歴史を100年ほど巻き戻してみましょう。ダイムラーが発明した内燃機つきの自動二輪車や、カールベンツが発明した三輪自動車が登場したのは1885年のことですが、内燃機自動車より前の1839年にはすでに電気自動車が誕生していました。ところが、実用に至る技術が開発されすぐには普及はしませんでした。

その後、1873年にはイギリス人が実用的な電気自動車を製造、続く89年にはフランスでガソリン車をしのぐ性能の電気自動車を製造しました。この年に、日本在住のアメリカ人が電気自動車を輸入した記録が残っているそうです。個人的な輸入ですがこれが日本の電気自動車の歴史の始まりだそうです。
1900年代初頭にはいると蒸気・ガソリン・電気の3つの動力源の自動車がそれぞれ普及していましたが、その中で電気自動車が全世界で40%を占めていたそうです。ニューヨークのタクシーはすべて電気自動だったそうです。

他の自動車に比べ製造やメンテナンスが容易で排ガスやにおいもなく、スイッチを入れればモーターがまわって車が動く、その手軽さが受けたのでしょう。というのもガソリン車はまだ開発の初期段階で、点火装置を作るのが容易ではなく、運転するにも高い技術が必要だったそうです。

 

時代を大きく変えた1908年発売の「T型フォード」

 

電気自動車からガソリン自動車へ、自動車開発の流れを大きく変えたのは1908年に発売された「T型フォード」でした。内燃機関の技術が著しく進歩し、ガソリン車の技術開発に対する政府の積極的支援もあって価格も低下、ガソリン車人気に火がつきました。一方の電気自動車と言えば新しいモーターやバッテリー技術開発に政府の支援を得られず資金も集まらず、技術進歩がありませんでした。電気自動車は次第に市場から姿を消していきました。その後、1970~80年代にかけての石油危機や大気汚染対策の強化により再三、脚光を浴びることがありましたがガソリン自動車の性能を上回る技術が開発できず、その勢いを止めることはできないままガソリンエンジン自動車は鉄道に代わって世界の物流・輸送をリードしてきました。

 

クリーンな電気自動車に再び期待が高まってきました

 

ゆっくり亀のように走り続けてきた電気自動車を巡る環境が変わり始めたのは半世紀を経た1990年代に入ってからです。地球温暖化が国際的に問題視され議論されるようになってきたことです。ガソリン車、ディーゼル車の急速な普及により負の側面として「大気汚染」「地球温暖化」「化石燃料の枯渇」という世界共通の課題をクローズアップし、クリーンな電気自動車に再び期待が高まってきました。温暖化の原因物質のCO2を排出するだけではありません。硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)をも排出するめ、健康被害が深刻になっています。

世界中の国々が電気自動車に向かい始めるのは、時代の流れなのかもしれません。電気自動車開発をリードしてきた日・米に続いてドイツ、イギリス、フランスの欧州主要国が今年になってガソリン車販売中止の方針を打ち出しきました。紆余曲折がありましたが今度こそ本当の電気自動車時代が来るのではないか、と思わせる最近の動向です。

CO2の排出をカーボンニュートラルの範囲に抑えた低炭素社会は、究極の電化社会でもあります。そこでユーティリティーマシーン・電気自動車を支えるのがクリーンで安定した電力です。再生可能エネルギーや原子力を上手に組み合わせて化石燃料に過度に依存しない、自給ベースの電力供給態勢を整えていくことが大切ですね。

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