子どもが独立したのでマイホームが広すぎる…! 30年前と比べて地価が倍増しているので、売って「老後資金の足し」にしたいのですが、注意点はありますか?
そこで本記事では、住み替えを決定する前に考えていただきたいポイントと注意点を解説します。
CFP(R)認定者
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。
自宅をいくらで売却できる?
Aさんは自宅の売却を考えていますが、まだ不動産会社の査定を受けてはいません。近隣で売りに出ている住宅を調べて、自宅がいくらくらいで売れるかを予想している状況だということです。
マイホームの売却額で、今後のマネープランは大きく変わります。まずは、不動産会社に査定をしてもらい、売却したらいくらくらい手元に残るのかを検討しましょう。査定をしてもらったからといって、その不動産会社に売却を依頼する必要はないので、できれば複数の査定をしてもらって妥当な額で検討すると安心です。
Aさんのマイホームは築30年の木造住宅なので、家屋については期待するほどの査定額にならないかもしれません。木造住宅の耐用年数は30年です。30年たったからといって価値がなくなるわけではありませんが、築30年の中古住宅を買う人は、大きなリフォームが必要と考えるでしょう。
リフォームをしても、あと10年、20年後には建て替えを考えることになるかもしれません。築年数の割に売値が高いと、土地を買って新しい家を建てるか、少し高くても新築物件を買うほうがお得と判断されてしまいます。
強気の売値を設定して3ヶ月、半年たっても売却できず、値を下げるのでは今後のライフプランにも影響が出ます。築30年たった家の売却価格は、ほぼ土地のみと覚悟して、今後のマネープランを考えておくほうが安心です。想定より高い額で売れれば、それはうれしい誤算と考えればよいでしょう。
将来の家賃はインフレで上がることも想定する
Aさんは、住み替え先として賃貸を考えているということですが、賃貸の場合は家賃や更新料が将来上がる可能性を想定しておかなければなりません。マイホーム売却で得た資金をうまく運用していければよいのですが、普通預金で置いておくのでは、インフレに対応できません。多少のインフレでも不安がなく、余裕あるマネープランを立てておくことが重要です。
ところで、賃貸の場合は住み続けたくても、住み替えなければならなくなるケースがあるかもしれません。高齢になって住み替えを考える場合、特に妻がひとり残された状態など、新たな賃貸住宅を契約することはハードルが高くなる可能性があります。できるだけ、長く住み続けられそうな賃貸住宅を探しましょう。
住み替え先の環境は?
Aさんは、地方への移住も検討しているということですが、これまでとまったく違う生活圏で暮らす場合は特に慎重に検討しましょう。
知らない人ばかりのご近所と良好な関係を築いていけるか、病気になったり困りごとが起きたりしたときに助けてくれる人が見つかるかなど、検討する項目はたくさんあります。また、買い物や病院に通うのにクルマが必要な場合は、自分で運転できなくなったときにどうするかも考えておかなければなりません。
特に、60代以降の住み替えでは、将来的に介護が必要となった場合を想定しておくことが重要です。何かあったときに、子どもたちが助けに来てくれるのか、病院が近くにあるか、住み替え先の自治体の介護サービスが充実しているかどうかは、住み替え先を決めるうえで大切な条件です。
家族の意見が一致しているか?
夫婦で住み替えに対する意見が一致しているか、住み慣れたわが家を手放すことに子どもたちが同意しているかも重要です。ずっと会社勤めをしていた夫は、リタイア後に新しい環境で暮らすことを希望しているけれど、専業主婦として暮らしてきた妻は近所に友だちも多く、住み慣れた環境を離れたくないと考えているという話もよく聞かれます。
また、大人になって家を出た子どもたちも、いずれは親の家を建て替えて、そこで暮らしたいと思っているかもしれません。30年間暮らした思い出がいっぱい詰まった家ですから、家族みんなで話し合い、納得したうえで計画を進めましょう。
まとめ
60歳を過ぎて住み替えを考える場合、いずれは収入が年金のみになることを考えて、慎重な資金プランが重要です。
Aさんのマイホームは30年の間に地価が倍増したということですが、今後も地価は上昇していくかもしれません。売却した資金で新築か築浅中古で住みやすい広さのマンションを購入する、子ども家族と二世帯住宅を建てるなど、賃貸住宅以外の選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者 : 蟹山淳子
CFP(R)認定者
