「月30万円の医療費」でも助かった…“高額療養費制度”8月の「見直し延期」は本当に朗報? 45歳会社員が感じる“今後の不安”とは
本記事では、なぜこんな混乱が生じたのか、そして今後どうなるのか、高額療養費制度の仕組みや理念を解きほぐして解説します。また、実際に制度を利用するときの、マイナ保険証や「限度額認定証」の利用などについても合わせて解説します。
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の自己負担額が、1ヶ月(1日から月末まで)の上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
毎月の上限額は、加入者の年齢や所得水準で決められています。
住民税非課税世帯:3万5400円
年収約370万円以下:5万7600円
年収約370万~約770万円:8万100円+(医療費-26万7000円)×1%
年収約770万~約1160万円:16万7400円+(医療費-55万8000円)×1%
年収1160万円超:25万2600円+(医療費-84万2000円)×1%
今回の事例のように、「45歳会社員で月30万円の医療費負担がある」という場合、年収によって負担額は異なります。
年収約370万円以下:5万7600円
年収約370万~約770万円:8万100円+(100万円-26万7000円)×1% = 8万100円+7330円 =8万7430円
年収約770万~約1160万円
16万7400円+(100万円-55万8000円)×1% = 16万7400円-25万8000円×1% = 16万7400円+4420円=17万1820円
なお、同世帯で同じ医療保険に加入している人の窓口自己負担額を合算できる「世帯合算」や、過去12ヶ月以内に3回以上上限額に達すると4回目から上限額が下がる「多数回該当」(図表1)という仕組みもあり、上限額はそれぞれのケースによって異なると言えます。
図表1 <70歳未満の方の場合>
厚生労働省保険局 高額療養費制度を利用される皆さまへ より引用
今回の高額療養費見直しの経緯
国内における高額療養費は、高齢化や高額薬剤の普及などで年々増加しており、これは現役世代を中心とした保険料増加の一因になっているとされています。
高額療養費の見直しは、健康な人を含めた全ての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図る観点で検討が進められています。しかし、3月に入って石破茂首相が制度見直しの先送りを表明しました。
高額療養費制度の見直しは、なぜ挫折したのか
健康保険組合連合会(健保連)の調査では、2023年度の1000万円以上の高額な保険請求上位100件のうち、74件が悪性腫瘍(がん)、14件が先天性疾患となっています。命に関わる病気の治療には高いお金がかかります。こうした重症患者の自己負担を増やして医療需要を抑制すれば、生死に関わる重大な健康被害を引き起こしかねません。
高額療養費制度は、家計破綻や治療断念を防ぐという公的医療保険の最も重要な役割を担うものです。WHOは、家計の総消費または収入の10%を超える医療費の自己負担が生じる水準を「破滅的医療支出」と定義し、家計に過度な経済的打撃を与えるとしています。
日本、ドイツ、フランス、イギリス、カナダなどの先進国では負担軽減策などが設けられ、一般の家庭が「破滅的医療支出」の状態に陥るリスクは著しく低いと言われていますが、日本において今回の高額療養費制度の改正が実施されれば、ほぼ全ての年収区分で「破滅的医療支出」の水準に達しかねない、という試算もあります。
今後どのようなことが見込まれるか
高額療養費制度の見直しについては、26年秋までに結論が出される見込みで、これからも検討が進むでしょう。
また、医療費抑制のために、医師からの処方箋が必要で、かつ市販のものと類似した薬をさす「OTC類似薬」を保険対象から外すことについても議論がされています。ただし、OTC類似薬が必要な慢性疾患の患者にとっては大きな負担増となる可能性があり、慎重な検討が必要と言えます。
高額療養費はマイナ保険証がなくても適用される
なお、高額療養費について「マイナンバー保険証があれば、手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される」と言われています。
ただ、これについては、マイナ保険証に限らず、健康保険証や資格確認証を提示して「オンライン資格確認システムで限度額情報の利用に同意する」と申し出ることによっても、同様に、高額療養費制度を活用することができます。これにより、窓口で限度額を超える支払いをする必要がなくなります。
まとめ
高額療養費制度の見直しによる負担増は回避されましたが、2026年秋までに段階的な上限額引き上げが再び検討される可能性がないとは言えません
タイトルの事例のように、45歳会社員で月30万円の医療費がかかっているのなら、現状では高額療養費制度で大きく負担が減っていると思います。ただし、今後の議論次第では自己負担分が増える可能性もあるため、動向には注目しておきたいものです。
出典
厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
厚生労働省 高額療養費制度の見直しについて
厚生労働省保険局 高額療養費制度を利用される皆さまへ
執筆者 : 玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

