無償化で「私立高=富裕層」は過去の話に!?「世帯年収600万円」のわが家でも、子ども2人を“私立高”に通わせて問題なし?「公立・私立」の費用も比較
入学後にかかる費用や、制度変更によって受験難易度は変わるのかなど、私立を選ぶ際に検討すべきポイントや費用の目安を解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種
目次
2026年度以降は私立高も所得制限が撤廃、支給額の上限もアップ
「高校が無料になる」「高校無償化で私立も無料になる」などと言われていますが、正しくは「高等学校等就学支援金制度」という国の助成制度が変更されることにより、2026年度から支援対象が広がったり、支給額が増えたりすることを指します。
支給対象は高等学校、特別支援学校の高等部、高等専門学校、専修学校などに通う生徒で、国公私立といった高校の種類を問いません。制度自体は2010年に始まり、少子化対策の一環として何度かの法改正が行われてきました。
2026年度からは、2025年度は所得制限がかかっていた私立高の加算分についても制限が撤廃され、加算金額の上限も引き上げられる予定です(図表1)。具体的には、私立高の平均的な年間授業料である45万7000円まで支給上限額が引き上げられます。
つまり、公立・私立といった高校の種類や世帯年収に関係なく、全国的な授業料の平均額が支給されることになります。
図表1
文部科学省 高等学校等就学支援金・高校生等臨時支援金リーフレットおよび第217回国会における衆議院予算委員会による可決事項 より筆者作成
高校無償化後にかかる教育費の総額は、公立と私立で年間約25万円の差
無償化の対象となるのは、あくまでも「授業料」です。私立入学時には、入学金や施設設備費、制服代などのまとまった金額を用意する必要があります。また、入学後にかかる部活動や通学定期、学用品や修学旅行費の積み立てなどの諸費用も、基本的に公立より私立のほうが高い傾向にあります。
そのため、高校の授業料の全額が無償化された場合でも、学校内外にかかる教育費の総額は、図表2(令和5年度に保護者が支出した子ども1人あたりの教育費総額)のとおり、公立で約55万円、私立で約80万円かかるため、私立のほうが年間25万円ほど高い額を見込んでおく必要があります。
図表2
文部科学省 令和5年度子供の学習費調査 をもとに筆者作成
複数年単位でみた教育費全体の見通しを
家庭による違いはありますが、一般に、教育費の支出の目安は、高校生のいる家庭では多くて世帯年収の2割程度までが無理のない範囲とされています。
世帯年収600万円の家庭であれば、年額120万円程度。図表2より、現在、公立に通う中学生の子ども2人がいる場合、上の子が公立高校に入学した場合の教育費の総額は平均約110万円となり、ほぼ無理ない範囲と言えそうです。
上の子が私立高校に入学した場合は、120万円を上回ってしまい、家庭の状況によっては詳細な資金計画が必要になりそうです。さらに、下の子も高校生になり、私立に通うことを想定すると、年間の教育費は約160万円になります。大学受験や大学進学までを視野に入れると、必要な金額はさらに上回ることが予想されます。
これらのシミュレーションはあくまでも一例です。通塾の有無や進学先による差などが大きいため、気になる学校があれば具体的な金額をチェックしておきましょう。
また、地域によっては入学金や施設費なども支給対象になる独自の支援制度を設けているため、お住まいの自治体のホームページなどを調べてみてください。ポイントは、数年先も踏まえた支出額全体のイメージを持っておくことです。
無償化で受験者の学校選びは変化する?
家計面以外の視点で、高校無償化がこれからの学校選びに与える影響はどのくらいあるのでしょうか。単純に考えると、私立を志望する受験者層が増え、公立が減る、という図式が予想されます。実際、独自の施策によって無償化が先行した東京都では、都立全日制への2025年度入試志望者の割合が過去最低を記録しました。
こうした一部の大都市の動きが、全国的に広がるかは不透明です。多くの地域では、公立と私立では高校の数や偏差値帯の違いが大きく、志望校を変更する要素が多くないからです。
ただし、長期的にみると魅力のある学校は難易度が高まり、そうでない学校は淘汰(とうた)の対象に、といった流れが生じるかもしれません。保護者としては、費用面に加えてわが子と志望校との相性を見極める「オンリーワンの視点を持つ」ことがますます求められそうです。
出典
文部科学省 高等学校等就学支援金・高校生等臨時支援金リーフレット
文部科学省 子供の学習費調査
東京都 令和7年度 都立高校全日制等志望予定(第1志望)調査の結果について
執筆者 : 掛川夏
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