10年前まで通院していた大学病院に「最近体調が悪いから診てほしい」と言ったら、診察代とは別に“6000円”かかると言われました。なぜでしょうか?
CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。
診察代とは別にかかるもの
医療費のほかに支払う必要があるものとは、何でしょうか。
日本国内の医療機関は、地域に根ざした身近なクリニックや、中規模・小規模の病院、国立病院や大学病院のような大規模の病院等、さまざまな医療機関があります。
基本的な考え方として、症状によって診てもらう病院が異なります。
中規模・小規模の病院
このように、“身近なクリニック・中小規模の病院”と“大規模病院”とでは、それぞれ役割や機能が異なります。
しかし、なかには「もしものことがあっても、最初から大規模病院で診察を受けていれば安心だ」などと思う方がいます。つまり、比較的軽い症状であるにもかかわらず、身近なクリニック等に行かずにはじめから大規模病院を受診するケースがあるということです。
もちろん、一見すると軽い症状だが実は重い病気だったというケースもありますので一概には言えませんが、身近なクリニック等で対応可能な症状であるにもかかわらず、「安心だから」などという理由で大規模病院を受診する方がどんどん増加してしまうと、大規模病院に患者が集中して待ち時間が長くなってしまいます。
それにより、「大規模病院の診療が本当に必要な患者」の対応に支障が出てしまう可能性があるのです。
このような事態に対応するために、病状に合った医療機関を受診するよう、平成27年5月に医療保険制度改革法が成立しました。他院からの紹介を得ずに(紹介状を持参せずに)大規模病院を受診する場合、診察代のほかに選定療養費という「特別の料金」が徴収されることになりました。
この「特別の料金」は初診の患者はもちろんのこと、もともと大規模病院に通院していたが医師の判断のもと、他院を紹介されたにもかかわらず、ご自身の意思で大規模病院にかかる場合にも、この「特別の料金」が請求されることになります。
冒頭のご相談にあるように、10年前まで通院していた大学病院で診察を受けようとする場合でも、前回の受診から一定期間(一般的に3ヶ月が多い)以上経過してしまう場合には初診とされます。よって、いきなり大学病院で診てもらうと「特別の料金」が必要になります。
「特別の料金」が必要な病院とは
「特別の料金」の対象となるのは、以下の病院です。
●特定機能病院(高度の医療の提供、高度の医療技術の開発および高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院)
●一般病床数が200床以上の地域医療支援病院
●一般病床数200床以上の紹介受診重点医療機関
ここで、一般病床数が200床以上あっても上記に該当しない病院は、「特別の料金」の徴収が任意となっているため、支払わなくてもよい場合もあります。
紹介状がなくても徴収されない場合
状況により、「特別の料金」がかからない場合があります。
例えば、緊急対応が必要となる傷病であるなどの“やむを得ない事情”のために大規模病院を受診する場合は、選定療養費を徴収してはならないとされています。そのほかにも以下のように、徴収してはならない場合、しなくてもよい場合があります。
●医療機関が「特別の料金」を求めてはならない患者
(1)救急対応が必要な患者
(2)国の公費負担医療制度の受給対象となっている方
(3)地方単独の公費負担医療の受給者(特定の障害、特定の疾病等)
(4)無料低額診療事業実施医療機関における当該制度の対象者
(5)エイズ拠点病院におけるHIV感染者
●医療機関が「特別の料金」を求めなくてもよい患者
【初診の場合】
(1)自施設において、他の診療科の医師に「○○科の診察も並行して行う必要がある」と判断され、院内の別の科を紹介されて受診する患者
(2)医科と歯科との間で院内の診療科を紹介された患者
(3)特定健康診査、がん検診等の結果により精密検査受診の指示を受けた患者 (4)救急医療事業、出産など周産期事業等における休日・夜間に受診する患者
(5)外来を受診し、そのまま継続して入院した患者
(6)地域に他に当該診療科となる保険医療機関がなく、その保険医療機関が実質的な外来診療を担っているような診療科を受診する患者
(7)治験協力者である患者
(8)災害により被害を受けた患者
(9)労働災害、公務災害、交通事故、自費診療の患者
(10)その他、保険医療機関からその保険医療機関を直接受診する必要があると認められた患者
【再診の場合】
(1)救急医療事業、出産など周産期事業等における休日・夜間に受診する患者
(2)外来を受診し、そのまま継続して入院した患者
(3)災害により被害を受けた患者
(4)労働災害、公務災害、交通事故、自費診療の患者
(5)その他、保険医療機関からその保険医療機関を直接受診する必要があると認められた患者
ただし、初診(10)と再診(5)は、緊急性の低い時間外の受診、単なる予約受診等、自己都合により受診する場合を除きます。
(引用:厚生労働省「紹介状を持たずに特定の病院を受診する場合等の「特別の料金」の見直しについて」、厚生労働省「制度案内リーフレット」)
まとめ
令和4年10月からは、「特別な料金」が以下のように改正されました。
●【初診】5000円(歯科は3000円)以上→7000円(歯科は5000円)以上
●【再診】2500円(歯科は1500円)以上→3000円(歯科は1900円)以上
医療機関によっては、1万円を超える料金が徴収されるケースもあります。
体調不良やけがなどで医療機関を受診する際は、まず自宅の近所や通いやすい場所にある身近なクリニック等にかかりましょう。医師に「大規模病院の診察が必要である」と判断されれば大規模病院への紹介、つまり紹介状を作成してもらえます。
身近なクリニック等で紹介状を発行してもらえれば、大規模病院にかかったとしても「特別な料金」を徴収されることはありません。
出典
厚生労働省 紹介状を持たずに特定の病院を受診する場合等の「特別の料金」の見直しについて
厚生労働省 医療機関の機能・役割に応じた適切な受診を行うようお願いします。
厚生労働省 特定機能病院について
厚生労働省 中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院・外来医療等の調査・評価分科会)) 令和7年度第7回 議事録 外来医療(その2) 紹介状なしの大病院受診時に係る選定療養について
執筆者 : 林智慮
CFP(R)認定者
