パートで「月収16万円」のシングルマザーです。ネットで「生活保護のほうがラク」と聞きましたが、働くだけ“損”なのでしょうか?
生活保護は、あくまで生活に困窮した人のために設けられた最低限度の生活を保障する制度です。収入との単純な優劣で「働くより得」と考えるものではありません。
本記事では、母と子ども1人の家庭を例に、生活保護を受ける場合とパート収入(月16万円)の場合とで、どのくらいの差があるのかを分かりやすく説明します。
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
銀行にて12年勤務し、法人および富裕層向けのコンサルティング営業に従事。特に相続対策や遊休地の有効活用に関する提案を多数手がけ、資産管理・税務・不動産戦略に精通。銀行で培った知識と経験を活かし、収益最大化やリスク管理を考慮した土地活用のアドバイスを得意とする。
現在は、2社の経理を担当しながら、これまでの経験をもとに複数の金融メディアでお金に関する情報を発信。実践的かつ分かりやすい情報提供を心がけている。
母と子ども1人世帯の生活保護はいくらくらい?
生活保護の基準額は、住んでいる地域や家族構成によって異なります。ここでは、東京都23区(1級地-1)で母と子ども(小学生)の2人暮らしを想定してみましょう。生活保護の支給額は大きく分けて「生活扶助」と「住宅扶助」で構成されます。
●生活扶助:食費や光熱費、衣服代など日常生活に必要な費用
●住宅扶助:家賃の実費を支援(上限あり)
東京都新宿区に住む母子2人世帯の場合、令和5年10月改定後の基準は次のとおりです。
●生活扶助(第1類+第2類+特別加算):8万1249円+3万8060円+2000円 = 12万1309円
●母子加算:1万8800円
●児童養育加算:1万190円
●教育扶助(小学生):3400円
合計すると、生活扶助の合計は 15万3699円となります。ここに、東京都23区の母子2人世帯に認められる住宅扶助6万4000円を加えた約21万7700円が、月あたりの支給目安となります。
月収16万円で働くのは損なの?
では、月収16万円で働く場合を見ていきましょう。
まず、社会保険料や税金が差し引かれるため、手取りは13万~14万円程度になります。ここに児童手当が子ども1人で月1万円が加わります。
さらに、母子家庭向けの児童扶養手当も受けられますが、東京都新宿区を例にした場合、全額支給の所得上限(年収約107万円)を大きく超えるため、月収16万円の場合は「一部支給」の対象となります。一部支給の場合の計算式をあてはめると、支給額はおよそ2万5000円です。
したがって、パート収入と児童手当・児童扶養手当を合わせた可処分所得は、おおよそ16万~17万円になります。
生活保護と就労は「損得」だけで比べられない
ネット上では「生活保護のほうが得」といった声も見られますが、実際には収入の多い少ないだけで損得を判断することはできません。
生活保護は最低限度の生活を守る制度である一方、預貯金や自動車を持つことは原則できず、資産を形成したり自由に出費したりする余地は限られています。つまり、保障されるのはあくまで「最低限の生活」であり、将来のゆとりや選択肢まではカバーできないのです。
一方、就労収入があれば、貯蓄をしたり自分の意思で生活設計を描いたりすることが可能です。生活保護と比べると、働くことには「損得」以上に、将来に向けた自由や安心を広げられる意味があると言えるでしょう。
また、母子家庭を支援する仕組みは、生活保護だけではありません。児童扶養手当や就学援助など、ほかの制度を活用することで、働きながらでも生活の安定を図ることができます。
まとめ
母子家庭でパート勤務・月収16万円という状況は、確かに家計に余裕がなく、生活保護を利用したほうが一時的に現金収入が多くなる場合もあります。
ただし、生活保護は資産や収入に厳しい制限が設けられた「最低限度の生活を保障する制度」であり、単純に「働くより得か損か」で比べられるものではありません。長い目で見れば、就労を続けながら児童扶養手当や就学援助といった制度を活用することで、生活の安定と将来の備えを得ることができます。
結局のところ大切なのは、「どちらが得か」ではなく、自分と子どもにとって安心して暮らせる形を選ぶことではないでしょうか。
出典
厚生労働省 生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和7年4月)
新宿区 生活保護基準額
新宿区 ひとり親家庭の方 ひとりでの出産や子育てをむかえる方へ
執筆者 : 竹下ひとみ
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
