マイナ保険証を利用中ですが、薬局から「お薬手帳もお持ちください」と言われました。マイナ保険証があれば“正確なデータ”が反映されるはずなのに、なぜですか?「命と健康」を守るポイントを解説

配信日: 2025.09.18 更新日: 2025.09.26
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マイナ保険証を利用中ですが、薬局から「お薬手帳もお持ちください」と言われました。マイナ保険証があれば“正確なデータ”が反映されるはずなのに、なぜですか?「命と健康」を守るポイントを解説
「マイナ保険証なら、正確なデータに基づくより良い医療を受けることができる」と言われますが、マイナ保険証にひもづいた医療情報(マイナポータルの医療情報)は、直近1ヶ月の薬の記録などが反映されないといった限界があります。
 
お薬手帳は、こうした課題を補うことができます。さらに重複投薬での無駄遣いや、薬の飲み合わせ事故を防げます。またお薬手帳の持参で医療費も少し安くなります。
 
本記事ではお薬手帳が誕生したいきさつや、災害時に役立ったことも含め、お薬手帳の大切さを説明します。
玉上信明

社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

マイナ保険証にひもづく医療情報(マイナポータルの医療情報)は1ヶ月遅れ。薬の飲み合わせ事故防止等に限界

マイナ保険証で受診したり、調剤を受けたりすれば、過去に処方されたお薬や特定健診などの情報を医師・薬剤師にスムーズに共有することができる、とされています。
 
ただし、これについては注意すべき点があります。情報の遅延と情報の制約です。医師らが閲覧できる医療情報の反映は原則毎月11日で、その前月分までの情報です。
 
しかも、保険医療機関・保険薬局が審査支払機関(保険者から審査支払いを委託された機関)へ電子請求した診療・調剤報酬明細書を基にした情報に限られます。
 
例えば、9月2日に処方された薬情報は、9月11日の情報反映タイミングでは医師らが閲覧できる医療情報には反映されません。そのため、9月12日にマイナ保険証を提示して医療機関にかかった場合、薬の重複処方や飲み合わせ事故が生じる可能性が否定できません。
 
また、自由診療(公的医療保険が適用されない医療技術や薬剤を使う診療)の情報は反映されません。これも、薬の重複処方や飲み合わせ事故の原因になりえます。
 
お薬手帳を適切に活用すれば、リアルタイムで調剤情報が把握できます。また、お薬手帳には自由診療の情報も記録が可能です。従って、現状ではマイナ保険証は完全にお薬手帳の代わりになるとはいえないでしょう。
 

お薬手帳の誕生は、重篤な飲み合わせ事故が契機

そもそもお薬手帳はなぜ誕生したのでしょうか。お薬手帳導入のきっかけは、1993年に起こった「ソリブジン事件」です。抗がん剤を服用している患者さんが、別の病院から処方された新薬の抗ウイルス薬を併用し、相互作用により15名の死者が出た事故です。
 
両薬剤の相互作用は、それなりに添付文書に明記されていました。処方が確認できていればこのような痛ましい事故は避けられた可能性がありました。これをきっかけにして、「お薬手帳」という制度が定められたのです。
 
受診時に医療機関の医師や薬局の薬剤師に「お薬手帳」を見せれば、薬の飲み合わせ事故や重複投与を防ぐことができます。それによって、医薬品がより安全に使用でき、効果のある薬物療法につなげることができます。
 

お薬手帳の活用は法律で義務づけられ、診療報酬も優遇されている

現在では、お薬手帳の活用が法律で義務づけられています。具体的には、薬局開設者の義務として、お薬手帳を持たない人が来院したら、お薬手帳を所持するよう勧めること、お薬手帳を持っている人には手帳を活用した情報の提供および指導を行うこと、とされています。
 
また、お薬手帳を持参した場合は、持参しなかった場合に比べて調剤報酬が14点軽減されます。患者負担3割の場合は40円程度ですが、診療報酬が安くなり、患者負担軽減と安全性向上の両面から利用を勧奨されています(原則3ヶ月以内に同じ薬局で調剤を受ける際の取り扱いです)。
 

お薬手帳は震災などでとても役に立った

お薬手帳は、震災時にもとても役に立ちました。東日本大震災の際に日本薬剤師会が取りまとめた報告には、以下のような内容が記載されていました。
 
病院のカルテなどが紛失していたため、応援の医師が処方に難儀しましたが、薬剤師がお薬手帳から既処方内容、併用薬等の薬剤情報、病歴等を確認できました。これを医師に伝えることで処方がスムーズになりました。その後、医療従事者は、お薬手帳をカルテ兼薬歴といった位置づけで活用していったのです。
 
医療従事者は、普段デジタル化された情報のもとで業務を行っていました。あらゆるライフラインが不能の中で、改めてお薬手帳の有用性を確認できたのです。このような未曽有の状態でも、実感として6割以上の患者がお薬手帳を所持していたとのことです。
 

お薬手帳は命と健康を守る必須アイテム

ここまで記したのは、現在の状況です。今後、電子処方箋の普及や、電子版お薬手帳など、さまざまな改革が進めば、状況は変わっていくでしょう。
 
それでも現状では、お薬手帳は命と健康を守る必須アイテムと考えて、活用を図るべきでしょう。
 
注意すべきなのは、お薬手帳は、医療機関などへの来院時に必ず持参すること、また1人1冊だけにすることです。薬局ごとに別々のお薬手帳を持っている人が見受けられますが、これでは調剤などの情報が一元管理できません。
 
また、お薬手帳に自身で一般用医薬品・サプリメント・アレルギー歴・副作用歴などを記録しておけば、医師や薬剤師の診断・処方の参考になりますし、自身の健康を守ることにもつながります。このような活用もぜひ検討してください。
 

出典

厚生労働省 マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット
デジタル庁 マイナポータル 診療・薬剤情報、薬(薬剤情報)の更新日について教えてください。
デジタル庁 マイナポータル 診療・薬剤情報、薬(薬剤情報)、は何の情報を基に表示しているのでしょうか。
e-Gov法令検索 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則
 
執筆者 : 玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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