同僚と居酒屋に行ったら「お通し代500円」を請求されました。入店時に“説明がなかった”場合でも、支払う義務はあるのでしょうか?
このお通し代は、法律上、必ず支払う義務があるとは限りません。ただし、提供されたお通しを口にした場合は、「同意した」とみなされ、支払いを避けるのは難しくなります。
本記事では、お通し代の法的な扱いや慣習との違い、知っておきたい回避策を解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
お通し代とは? 相場と慣習
居酒屋のお通しとは、料理を注文する前に自動的に出される小皿料理のことです。金額は地域や店によって異なりますが、一般的に1人あたり300~500円前後が相場です。
お通しには、席料やサービス料といった意味合いが含まれる場合もあります。また、料理が運ばれるまでの待ち時間をつなぐ役割もあり、店側にとっては安定した収益源です。観光地や高級店では、1人1000円程度に設定されることもあります。
飲食店の出店・開業・運営に役立つサービスを提供する「飲食店ドットコム」を運営する株式会社シンクロ・フードの調査によれば、図表1のとおり、72.9%の店舗が「お通し代やサービス料を発生させる業態か」という質問に対して「はい」と回答しています。
図表1
株式会社シンクロ・フード お通しやサービス料についてアンケート調査(PR TIMES)
大多数の飲食店では何らかのお通し代やサービス料があるのが一般的ですが、大手チェーン居酒屋の中には「お通しなし」を売りにしている店舗も増えています。
つまり、お通し代は全国一律のルールではなく、店の方針や地域の慣習によって差があります。「居酒屋に行けば必ず出るもの」と思い込むのではなく、まずは店ごとの対応を知ることが大切です。
お通し代に法的な支払い義務はある?
法律的に見ると、注文していない商品やサービスに代金を請求することは、契約が成立していない状態です。つまり、入店時やメニューに「お通し代がかかります」と明記がない場合、契約の成立が認められにくく、支払い義務が生じないと解される余地があります。
消費者契約法でも、一方的に不利益を押し付ける契約は無効とされています。このため、「頼んでいないものに代金を支払え」という請求は法的には問題があるのです。ただし、「実際に食べたかどうか」で状況は変わります。料理を口にした場合は、黙示的に同意したと見なされ、代金を払わざるを得なくなります。
契約の成立や同意の有無は、消費者契約法や民法の原則に基づいて判断されます。多くの見解では、「食べずに返却すれば支払い義務はなく、食べた場合は同意とみなされる」とされています。つまり、法的には支払わなくてもよい場合があっても、実際には「食べれば払う」という単純なルールが社会で機能しているのです。
支払いを避けたい場合の対応方法
お通し代を支払いたくない場合は、入店時に「お通し不要です」とはっきり伝えるのが一番です。事前に確認すれば契約が成立せず、不要な支払いを避けられる可能性が高まります。最近では「お通しなし」と掲示している店や、テーブルチャージを明示している店もあります。
また、口コミサイトや公式メニューを事前に確認するのも有効です。注意すべきは、出されたものを食べてから「払いたくない」との主張は問題があるということです。これはトラブルのもとになり、場合によっては店員との口論にもつながりかねません。
どうしても納得できない場合は、食べずに返却した上で「注文していないので支払いません」と冷静に伝えるのが正しい対応です。お通し代を回避するには、あくまで「事前確認」と「事前交渉」がカギとなります。
知っておきたい実情と心構え
お通し代は、法的には「説明や合意がなければ義務が生じにくい」ですが、「食べれば同意したとみなされやすい」というシンプルなルールです。大切なのは、支払う・支払わない以前に、入店時に確認する習慣を持つことです。
「知らないまま流されて払う」のではなく、「納得したうえで支払う」のか「不要と伝える」のかを選べば、余計なトラブルは避けられます。もちろん、場の空気を乱さないためにあえて言わないという判断も間違いではありません。
大切なのは、自分が選んで行動していると理解すること。知識を持つことで、同僚との飲み会を気持ちよく楽しむ準備ができるのです。
出典
株式会社シンクロ・フード お通しやサービス料についてアンケート調査(PR TIMES)
株式会社シンクロ・フード 飲食店リサーチ
執筆者 : 諸岡拓也
2級ファイナンシャル・プランニング技能士

