2年半住んだ賃貸、原状回復費として「20万円」の請求がありました。クロスの張替が必要とのことですが、タバコもペット飼育もしていません。交渉の余地はありますか?
しかし、賃貸の原状回復費は、借主の故意や過失による損耗がないかぎり、すべてを負担する義務はありません。ガイドラインや判例でも、経年劣化や通常使用による損耗は貸し主負担とされるケースが多くあります。
本記事では、20万円の請求が妥当かどうかを判断するための考え方と、交渉の進め方を具体的に整理します。
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原状回復の考え方と法的な原則
原状回復とは、借主が退去時に借りた当時の状態に完全に戻すということではありません。国土交通省のガイドラインや裁判例では、故意・過失による損傷のみ修復の対象とされ、通常の使用や経年劣化による自然な損耗は借主負担外と明確に示されています。
具体的には、家具の跡や壁の小傷、日焼けによる壁の変色、床の摩耗などは「通常損耗」とみなされ貸主が負担します。一方で、壁に大きな穴を開けた、油汚れやカビ、ペットによる傷や臭いなどは借主の責任範囲となります。
修繕費用は、設備の耐用年数や修復の必要性に応じて判断され、耐用年数を超える修繕は借主の負担外となります。入居前の写真記録や、何が通常の範囲内かを理解しておくことが、トラブル防止のポイントとなります。
20万円という請求額の妥当性を見極める
原状回復費が20万円というのは、1Kや1LDKの部屋にしてはやや高額な部類に入りますが、損傷の状態や使用される材料、工賃の内訳次第で妥当となる場合もあります。妥当性を確認するためには、以下の3点をチェックしましょう。
まず、請求の内訳書を詳細に確認し、材料費・工賃・養生費などの根拠を明示してもらうことが重要です。金額の根拠を示す明細がなければ、交渉は難しくなります。
次に、使用期間と耐用年数です。クロス(壁紙)の耐用年数は一般的に6年とされており、2年半しか住んでいない場合は経年劣化分を差し引いた請求が妥当です。したがって、今回のケースで全額を借主が負担するのは合理的とはいえません。
さらに、通常損耗か過失かの判断も重要です。家具の設置跡や日焼けによる壁の変色は通常損耗扱いで、借主の負担外となることが多いです。クロスの全面張り替えも多くの場合は、故意・過失がないかぎり貸し主負担となります。
判例で見るクロス張り替えの扱い
実際の判例では、借主が明確な過失をしていない場合、壁紙の全面張り替え費用の請求は認められない傾向にあります。
例えば、家具の設置跡や冷蔵庫の熱による黄ばみ、日光による色あせなどは、生活の範囲内で避けられない自然な劣化とみなされ、「通常損耗」に分類されます。また、クロスの耐用年数を超えるタイミングで張り替える場合、その費用を借主に転嫁することは不当と判断される事例も多くあります。
これらのことから、裁判所は生活の範囲内で生じた汚れや劣化については、借主の責任ではないという判断を一貫して示しています。
交渉の進め方と注意点
請求額に納得できない場合、まずは見積書・内訳書の提示を求めましょう。どの部分の張り替えにいくらかかるのか、材料や工事内容を確認することが重要です。
そのうえで、地域の相場や国土交通省のガイドラインの基準を参考にし、どの範囲が通常損耗に該当するかを整理します。必要に応じて、不動産相談窓口や弁護士、消費生活センターなどの専門家に相談し、第三者の視点を入れることで客観的な判断がしやすくなります。
交渉の際は感情的にならず、根拠を示して冷静に主張することが大切です。耐用年数を踏まえて借主負担は一部に限られることや、通常損耗部分を含めた請求は不当であることなど、事実に基づいて話を進めることが大切です。こうした対応により、相手も合理的な対応をとりやすくなります。
交渉は内訳と耐用年数を突き合わせて冷静に行おう
原状回復の請求に対しては、提示された金額をそのまま受け入れる必要はありません。2年半という短い入居期間で喫煙やペットの飼育がなければ、20万円の請求は高額である可能性があります。
まずは明細を確認し、通常損耗や耐用年数を踏まえて妥当性を検討しましょう。そのうえで、根拠を持って冷静に交渉すれば、減額や再見積もりを引き出せる場合もあります。
また、契約内容や法律上のルールを十分に理解し、生活者として冷静かつ論理的に対応を心掛けることが退去時のトラブルを防ぐための重要なポイントとなるでしょう。
出典
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
