出張先のホテルで「ガラスのコップ」を割ってしまった! 報告せずに“チェックアウト”すると、後日連絡がきて「弁償の請求」をされますか? 正直に伝えれば大丈夫でしょうか?
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種
過失でも損害賠償請求される可能性がある
もしホテルの設備や備品を壊してしまい、宿泊した人にその原因がある場合は、民事上の責任としてホテルから損害賠償の請求を受けることがあります。
壊した原因は「故意(わざと)」だけでなく、「過失(間違って、不注意で)」の場合も該当します。状況によりますが、後日、損害賠償の請求の連絡が来ることは実際にあります。加えて、故意の場合は刑事上の器物損壊罪が成立することもあります。
実際にグラス1個で請求されることは少ない
とはいえ、一般的なホテルに備え付けられているグラスを1個壊してしまった程度で、弁償を言われることは少ないようです。理由は、ホテル側からみて「割が合わない」からです。
ホテルが損害賠償請求を行うには、グラスを割った宿泊客を特定しなければいけません。また、損害賠償の基本は「原状回復」のため、新品に交換するための費用を宿泊者に全額負担させることができません。耐用年数や減価償却を踏まえた部分的な金額だけです。
グラスの価格を、業務用に大量購入する数百円程度のものとします。税法上、ホテルの什器備品のうち、ガラスなどの割れやすいものは耐用年数が2年と定められています。減価償却率は0.5で、請求できる金額は数百円のさらに半分と微々たるものになります。
このように請求までにかけるコストと効果が見合わないため、一般的なケースでは問題視されずに済むことが多いようです。
もちろん、悪ふざけで故意に割ったり、過失であってもそのグラスが高価なものであったりすれば、弁償を請求される可能性が高くなるでしょう。
報告せずにチェックアウト、は大丈夫?
グラスを割ってしまっても、つい報告せずにチェックアウトしてそのままにしてしまったとしたら、いつホテルから確認の電話が来るか心配になるかもしれません。
報告しないと即法律違反、とはなりませんが、気づいた時点で報告すべきです。
客室の備品は管理されていますから、報告しなくても清掃時などに分かることが多いようです。特にグラスの場合は、飛び散った破片でホテルのスタッフや次の宿泊客がけがをしてしまうかもしれません。すぐに報告すれば、そうした新たな問題が起きる前にホテルは適切な対応をとることができます。
ある大手ホテルチェーンのSNSでは、「もし備品を壊してしまった場合は速やかにフロントに連絡してください。スタッフが部屋まで状況確認に行きます。これは宿泊客を疑っているわけではなく、双方で状況をきちんと確認し正しい対応をするためです」と呼びかけています。
グラスを割ってもホテルから連絡が来ないということは、ホテルが気づいていないのではなく、目をつむってくれたと考えるほうが妥当でしょう。そうなる前に、多少の気まずさや恥ずかしさがあったとしても、他者のものを壊した以上は、自分から報告したいものです。
まとめ
ホテルの備品のグラスを過失により割ってしまい、報告もしなかった場合、通常はそれ以上問題になることはないと思われます。
しかし、破損したものの価値が高い場合や、故意に破損した場合などは後日何らかの請求がくることがあります。これはグラスに限らず、ホテルの設備や備品全般に当てはまることです。もし破損してしまったら、速やかにホテルに報告するのが望ましいといえるでしょう。
また、もしもの場合に備えた「賠償責任補償」保険への加入も有効です。場合によっては、すでに加入しているクレジットカードに付帯されていることもあります。出張や旅行の前は、自身が加入している保険の種類を確認してみるとよいかもしれません。
出典
国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表
執筆者 : 掛川夏
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種
