来年度から「私立高校」の授業料の“所得制限が撤廃”と聞きました。わが家は「年収800万円」で都内在住ですが、実質いくら支援を受けられますか?
また、東京都では、独自の支援が行われており、所得制限なく支援を受けられます。年収800万円の人が、国と都の支援を合わせたときにいくら支援を受けられるのかを解説します。
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現在行われている支援
まずは、現在行われている支援の内容を確認しておきましょう。国が行っているのは「高等学校等就学支援金事業」と呼ばれる制度です。
これは、高等学校等に在学する生徒を対象に、最大3年、定時制や通信制は4年間、授業料を国が支援します。家族構成によっても変動しますが、最大で年額11万8800円の支援を受けられます。図表1に年収の目安と軽減額をまとめました。なお、年収910万円以上の世帯に対する支援は令和7年度限りとなっています。
図表1
文部科学省 高等学校等就学支援金・高校生等臨時支援金リーフレット(概要版)より筆者作成
また、東京都が独自で行っている制度が「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」です。保護者と生徒の住所が都内にある場合、最大で37万1200円の支援を受けられます。図表2に年収の目安と軽減額をまとめました。
図表2
公益財団法人東京都私学財団 私立高等学校等授業料軽減助成金事業(都の助成制度)より筆者作成
令和5年度までは、世帯年収約910万円未満の世帯が対象でしたが、令和6年度から所得制限が撤廃されました。
また、東京都には授業料以外の教育費の支援を受けられる制度である「私立高等学校等奨学給付金制度」もあります。これは、生活保護世帯や住民税非課税の世帯、家計が急変した世帯が受けられるもので、区分と給付額は図表3の通りです。
図表3
公益財団法人東京都私学財団 私立高等学校等奨学給付金事業より筆者作成
まだ詳しい情報は発表されていませんが、2025年2月25日に発表された、自由民主党、公明党、日本維新の会の三党合意では、令和8年度から収入要件を撤廃し、私立に対する加算額を45万7000円に引き上げることが明記されています。
その先行措置として、国の支援事業である高等学校就学支援事業の11万8800円の支給について、収入要件が撤廃されました。
年収800万円の場合はいくら支援を受けられる?
それでは、年収800万円で東京都に住んでいる場合、いくら支援を受けられるのかを見てみましょう。令和7年度時点では、国と都のどちらの支援制度でも収入要件が撤廃されているため、2つとも支援を受けられます。
しかし、該当区分を判別するため、所得の確認が行われます。所得区分を確認するための計算式は次のとおりです。
区市町村民税の課税標準額(課税所得額)×6%-区市町村民税の調整控除の額
今回、シミュレーションするにあたって、家族構成や所得控除を次のように仮定しました。
家族構成:世帯主(44歳)、妻(42歳)、子ども(17歳)
世帯主の年収:800万円
妻:収入なし
社会保険料控除額:120万円
配偶者控除:33万円
扶養控除:33万円
基礎控除:43万円
課税標準額を計算する
それでは実際に計算式に当てはめてみましょう。まず、課税標準額を求める必要があります。課税標準額は、所得合計額から所得控除合計額を引いた金額です。所得は給与以外にないため、年収から給与所得控除を引いたものです。
給与所得控除:800万円×10%+110万円=190万円
給与所得:800万円-190万円=610万円
所得控除の合計額:120万円+33万円+33万円+43万円=229万円
課税標準額:610万円-229万円=381万円
課税標準額は381万円となりました。
調整控除額を計算する
次に調整控除を計算します。調整控除額は、所得金額に応じて計算式が異なります。合計所得金額が200万円以下の場合は、次の1または2のいずれか少ない額の5%です。
1. 人的控除額の差の合計額
2. 住民税の合計課税所得金額
合計所得金額が200万円超の場合は、以下の計算式で求められます。
人的控除額の差の合計額-(住民税の合計課税所得金額-200万円)
※2500円未満の場合は2500円となる
人的控除額とは、所得税と住民税の控除額の差を調整するものです。今回のケースは、次のようになります。
基礎控除:5万円
配偶者控除:5万円
扶養控除(一般):5万円
先ほど求めた課税標準額が381万円で、合計所得金額200万円超の式に当てはめて算出します。
{15万円-(381万円-200万円)}×5%=-8万3000円
計算した結果、マイナスだったため、調整控除額は2500円となります。支援を受けられるかの判断となる計算に必要な数字が出そろったので、最初の式に当てはめてみましょう。
381万円×6%-2500円=22万6100円
30万4200円未満であるため、都の支援を受けられる金額は37万1200円です。そのため、国の支援金額である11万8800円と合わせると年間で49万円の支援を受けられます。
高校無償化に関する具体的な発表はまだない
2025年2月25日の三党合意以降、高校無償化に関して政府から具体的な内容はまだ発表されていません。自民党の総裁が高市早苗氏に変わったこともあり、どのようになるか不透明な部分も多くあります。
本格的な受験シーズンを迎えようとしている今、やきもきしている人もいるでしょう。収入要件は撤廃されたものの、国も都の制度も申請をしなければ支援を受けられません。まずは今ある制度をしっかり理解し、忘れずに申請するようにしましょう。
出典
文部科学省 高等学校等就学支援金・高校生等臨時支援金リーフレット(概要版)
公益財団法人東京都私学財団 私立高等学校等授業料軽減助成金事業(都の助成制度)
公益財団法人東京都私学財団 私立高等学校等奨学給付金事業
執筆者 : 金成時葉
2級ファイナンシャル・プランニング技能士



