近所に「90分・2980円食べ放題」の焼肉屋がオープン! 赤字になりそうだけど、なぜ潰れないの?「原価率30%・人件費カット」のカラクリとは
本記事では、食べ放題の焼き肉店の安さのカラクリを数字と仕組みで分かりやすく解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
目次
原価率30%前後でも成立する「食べ放題モデル」
飲食店の出店・開業・運営を支援する「飲食店ドットコム」を運営する株式会社シンクロ・フードの調査によれば、飲食店の原価率は、目標・実績ともに30~35%が最多です。
飲食店の原価率とは、売上に対する食材費の割合を示すもので、このほかに人件費を加えた「FLコスト(Food+Labor)」では、売上の60%以内が健全な経営の目安とされています。
つまり、食べ放題モデルでは、全体の食材構成をどう組み立てるかが重要です。肉類の中には、原価率40%を超えるものもあります。焼き肉店は、原価率の高い肉を主力にしつつ、全体のコストはしっかり管理しています。F(食材費)を30~35%、F+L(人件費)を合わせて60%以内に抑えることで、採算を維持しています。
肉の原価率が高くても成立する仕組み
焼き肉食べ放題は、一見すると高い肉の原価で採算が合わなそうに見えます。しかし、実際にはお肉だけでなく、ご飯・ラーメンなどの炭水化物、デザートなどのサイドメニューやドリンクの注文が多い業態であることが利益を支えています。
また、各種割引や期間限定キャンペーンを実施し、お肉の産地や品質を丁寧に説明する工夫もあります。こうした取り組みが安心感と満足感につながり、客単価を自然に引き上げています。
さらに、ドリンクの店内POPやポスターでの訴求、「ご一緒にお飲み物はいかがですか?」といった声かけも、利益率アップの重要な要素です。加えて、90分制など時間制限による回転率を確保することで、1日あたりの売上を最大化しています。
つまり、メインとなる肉以外に、原価率の低いメニューを増やしてバランスを取っています。結果的として、十分に採算が取れる仕組みになっています。
人件費削減のカギは「セルフ化と人の使い方」
収益を支えるもう1つの柱は、人件費削減です。近年は、注文タブレット・ロボット配膳・セントラルキッチン方式(調理の一部を本部でまとめて行う仕組み)などを導入し、調理スタッフ・ホールスタッフの数を最小化しているところが増えています。
さらに、ピークタイム以外は学生アルバイトを中心にシフトを組むことで、人件費のムダを抑えています。学生は授業の合間など短時間勤務が多いため、必要な時間帯だけ人員を確保しやすく、閑散時の人件費を最小限にできるのです。
こうした「人が少なくても回る店づくり」が、低価格維持の最大の武器となっています。
立地で決まる「Rコスト」の差
焼き肉食べ放題の経営を支えるのは、食材費(F)と人件費(L)だけではありません。近年では、出店場所や家賃などの「Rコスト」も、経営バランスを左右する重要な要素になっています。
地域密着型の立地選びもその1つです。ロードサイドに出店し、駐車場を確保して家族連れを呼び込むことで、平日夜も安定した集客が見込めます。また、高効率ロースターやガス設備を導入し、電気代や光熱費など固定費の上昇を防ぐ工夫も進んでいます。
こうした動きは、家賃(R)まで含めた「FLRコスト」を意識したものです。食材費・人件費・家賃を合わせたコストを売上の70%以内に抑えることが、健全な運営の目安とされています。
安さの裏にある経営の最適化
焼き肉食べ放題がつぶれないのは、安さを追求しているからではなく、数字で管理された仕組みがあるからです。原価率や人件費、家賃までも細かく計算し、食材構成や設備、立地のバランスを最適化することで、安定した経営を実現しています。
消費者が「安いのに大丈夫?」と思う裏側には、緻密なコスト管理と効率化の工夫があります。私たちは、こうした企業努力によって、安心して安価に焼き肉を楽しめているのです。
出典
株式会社シンクロ・フード 飲食店における原価率の現状についてアンケート調査
飲食店リサーチ
執筆者 : 諸岡拓也
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
