レストランのディナーコースで、7000円、9000円、1万1000円の3つのコースがありました。何となく9000円がよいような気がしますが、最もコスパがよいのはどのコースでしょうか。
ただし、その選択がコスパの最適解であるとはかぎりません。なぜ多くの人が真ん中を選ぶのか、まずはその理由を見てみましょう。
MS&ADインターリスク総研 主席研究員、東北大学大学院国際文化研究科招聘講師、英Cardiff Business School MBA
専門領域:食料安全保障、マイクロファイナンス、超高齢社会
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よく目にする3段階の値段設定
飲食以外にも、サービスなどで3段階の値段設定になっていることを目にすることは少なくありません。
例えば、動画配信サブスクのベーシック・スタンダード・プレミアムや、通信会社のスマホのS・M・L といった3つの料金プランなどを目にすると、多くの人があまり考えることなく金額が真ん中のプランを選択していることに気づかされます。
極端回避性という人間の心理
金額と品質の異なる3つの選択肢がある場合、人間は「極端回避性」という心理特性により中間、松竹梅でいえば「竹」を選ぶ傾向が指摘されています。
これは損をしたくない、後悔をしたくないという心理から、金額的にも、品質的にも無難な真ん中を選ぶという考え方です。したがって、コスパを追求したい人ほど、3つの選択肢の真ん中を選んでしまうのかもしれません。
「松竹梅の法則」の裏に隠された意図
飲食店やサービス業でよく見かける「松竹梅」の3段階の価格設定は、消費者心理を巧みに利用した販売戦略の一つです。例えば、7000円と9000円の2択では消費者の選択が分散しますが、1万1000円の選択肢を加えることで、真ん中の9000円を選ぶ人が増える傾向があります。
この戦略は、「松竹梅の法則」として知られています。過去のデータによると、3つの選択肢からの選択割合は一般的に「松2:竹5:梅3」となるといわれています。この法則に基づけば、前述のディナーコースでレストラン側が一番選んでほしいのは、「竹」である9000円のコースという可能性が高いと思われます。
コスパが良いのは「竹」か?
しかし、提供側が推したい選択肢が、必ずしも消費者にとってコスパが最良というわけではありません。なぜなら、提供側が最も利益率の高いコースを「竹」として設定している可能性があるからです。その場合、7000円や1万1000円のコースのほうが、実質的な価値が高い可能性も否定できません。
もしこうした背景を考慮して疑問が生まれるのであれば、あえて真ん中を避ける選択を試してみるのも一つの方法です。提供される内容を確認し、本当に自分にとって価値のある選択肢を見極めることが重要です。
まとめ
私たちは、日々の生活で多くの選択を迫られています。その一つひとつに頭を悩ませ続けると、選択疲れに陥り、本来の目的である「楽しい食事」を見失いかねません。
松竹梅の法則が、すべての場合に当てはまるとはかぎりません。コスパを追い求めるのも大切ですが、ときには価格や心理に縛られず、目の前の料理を心から楽しむことも忘れないでください。それこそが、真の「満足感」を得る極意ではないでしょうか。
出典
日本マーケティング学会 カンファレンス・プロシーディングス Vol.5(2016) 島 浩二 情報の提供が消費者の商品選択行動に与える影響について分析
執筆者 : 新納康介
MS&ADインターリスク総研 主席研究員、東北大学大学院国際文化研究科招聘講師、英Cardiff Business School MBA
