「年収200万円なら生活保護を続けたほうが安心」は誤り? その考えを制度の趣旨から見直す
本記事では生活保護の金額や、保護から脱した際に受け取ることができる給付金について解説します。
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生活保護の年収基準は地域ごとの「最低生活費」で決定
生活保護の金額は、被保護者の収入と最低生活費によって決まります。最低生活費とは、国によって定められた、生活に最低限必要とされる金額です。家族構成や住んでいる地域などの他にも、住宅扶助や教育扶助などのさまざまな基準で構成されています。
そもそも生活保護は、個人ではなく世帯全体を対象として行われるものとされています。そのため、1人の困窮者がいる場合、まず生活保護を受ける前に親族からの援助や所有している資産の売却を行い、生活費を捻出しなければいけません。
働くことが可能であれば能力に応じて就労し、年金やその他の手当ての受給資格があれば、先にそちらを受け取る必要があります。その上で収入が最低生活費に満たない場合は、生活保護を受けることが認められます。
保護を脱した場合は「就労自立給付金」が支給される
2014年7月の生活保護法改正に伴い、安定した職に就くなどして収入が最低生活費を上回り、生活保護が必要なくなった場合は、「就労自立給付金」が支給されることになりました。この場合の「安定した職」とは、おおむね6ヶ月以上の雇用が見込まれ、なおかつ生活を送れる収入を継続的に得られるという条件があります。
生活保護から脱却した後の税・社会保険料による負担を軽減し、生活を安定させて、保護が必要な状態に逆戻りすることを防ぐための制度とされています。そのため、一度もらうと3年間は再支給されません。
具体的な金額としては、生活保護を脱した月から遡って6ヶ月間の就労収入額に10%を乗じた額、これに単身世帯であれば2万円、複数世帯であれば3万円の基礎額を足した金額が一括支給されます。
しかし単身世帯の場合は10万円、複数世帯では15万円の上限があり、前述の金額が上限に達した場合は上限金額の支給となる点には注意しましょう。また、詳細は自治体ごとに確認が必要です。
年収200万円程度あれば「最低生活費」は上回っている可能性
次に、具体的な最低生活費の水準についても見ていきましょう。今回は、元被保護者が40代で東京23区内の単身世帯に住み、200万円の年収を得ていると仮定します。
厚生労働省の級地区分によると、東京23区内は「1級地-1」に該当するため、生活扶助基準は月額約7万4720円です。次に住宅扶助基準は、1級地で満額払っている場合、月額約5万3700円となります。
これらを足すと最低生活費はひと月当たり約12万8420円となり、年収に換算すると約154万1040円です。実際の支給額は医療費や家賃によっても前後しますが、今回のケースにおいて実収入である200万円は最低生活費を上回っています。
もっとも、税金や社会保険料を差し引いた可処分所得で見ると、年収200万円は最低生活費と大きな差が出ないケースもあります。
重要なのは、生活保護を「収入水準の高低」で継続・終了する制度ではなく、最低限度の生活を自力で維持できるかどうかを基準として判断される点です。安定した就労により最低生活費を継続的に上回る収入が見込める場合には、生活保護の制度目的からも、自立に向けた判断がなされることになります。
まとめ
生活保護は、病気や失業などにより最低限度の生活を維持できなくなった場合に、社会全体で支えるための制度です。一方で、就労によって最低生活費を継続的に上回る収入を得られる状態になった場合、受給を続けることを前提とした制度ではありません。
年収200万円程度の場合、税・社会保険料を差し引いた手取り額では生活保護水準と大きな差が生じないケースもありますが、就労が安定して続く見込みがあるのであれば、制度の趣旨としては自立を目指す段階に入ったと考えられます。
生活保護は「より安心な選択肢」を競う制度ではなく、必要なときに必要な支援を受け、状況が改善すれば自立へ移行するための仕組みである点を理解しておくことが重要です。
出典
厚生労働省 生活保護制度
厚生労働省 生活保護法による就労自立給付金の支給について 2014年4月
厚生労働省 級地区分(H30.10.1)要確認 2018年10月
厚生労働省 生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和7年10月)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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