来年から家賃が「7万→10万円になる」という通知が! 私は「手取り19万円」なので毎月ギリギリです…拒否しても大丈夫ですか?“強制退去”させられるでしょうか…?
とは言え、もし認めなければ「強制退去」させられるのではないかと焦ってしまうかもしれません。
しかし、一般的な賃貸契約(普通借家契約)であれば、一方的な通知で値上げが決定することはありませんし、強制退去にもなりません。ただし、単に拒否し続けるのが最善策とは限らないのも事実です。
本記事では、家賃値上げの法的な仕組みと、賢明な対処法を解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
「値上げ通知」=「決定」ではない
まず大前提として、貸主(大家さん)からの一方的な通知(手紙)だけで、家賃が自動的に上がることはありません。
確かに、借地借家法では次のいずれかの場合に「賃料の増額請求」ができるとしています。
・土地もしくは建物に対する租税そのほかの負担が増えたとき
・土地もしくは建物の価格の上昇、そのほかの経済事情の変動があったとき
・近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき
ただし、これはあくまでも「値上げを請求する権利」であり、値上げを確定させるには相手方の同意が必要とされています。
つまり、今回の手紙は「値上げの決定通知」ではなく、法律的には「値上げの交渉をお願いします」という申し入れにあたるのです。
「値上げに応じない場合は強制退去させられるかも」「契約を更新してもらえないかも」などと不安になるかもしれませんが、これはあり得ません。貸主による解約の申し入れや更新の拒否には正当事由が必要とされていますが、家賃値上げの拒否はこれに当たらないという考えが一般的だからです。
家賃の値上げ通知が届いたらどうする?
家賃の値上げに納得できない場合に最も避けるべきは、その通知を無視し続けることです。まず家賃の値上げに同意せず、交渉の余地を探る必要があります。
そもそも前述した通り、賃料の増額請求には「税金額が上がった」「同等の物件と比べて賃料が低い」など正当な理由が必要です。まず、値上げの根拠をしっかり示してもらったうえで、納得できるか考えるべきでしょう。
また、値上げに納得できないことを理由に家賃を未払いにすることも避けなければなりません。協議が調わない場合であっても、「相当と認める額」の賃料支払いが必要とされているからです。
一般的にはこれまでと同額の賃料を支払えば足りるとされているため、これまで通り賃料を払い続けるようにしましょう。
なお、大家さんが「値上げに応じるまで賃料を受け取らない」などと言った場合は、供託という手続きをとることができます。供託とは法務局に従来の家賃相当額を納入することで、これにより家賃未納として契約解除されることを防げるのです。
賃料増額に正当性があるか精査は必要
「家賃の値上げはあくまでもお願いだから拒否しても大丈夫」と考える人もいるようですが、全てにこれが当てはまるわけではありません。というのも、貸主が調停を申し立て、裁判所が値上げを妥当と認めた場合は、それに従う必要があります。
その場合、借主は値上げ請求のあった時点までさかのぼって、それまでの家賃との差額に利息を加えて支払わなければならないのです。
したがって、値上げは全面的に拒否するのではなく、妥当であるかどうか協議したうえで、お互いに納得した結論を出すことが大切と言えるでしょう。周辺物件の家賃相場を調べておくなど、余裕を持って交渉に臨みたいところです。
まとめ
家賃の値上げ通知が届いても、必ずしもその通りにする必要はありませんし、受け入れないことを理由に強制退去させられることはありません。
ただし、もし貸主の主張に法的な正当性があり、調停や裁判で値上げが認められた場合、差額と利息をさかのぼって支払う義務が生じるリスクもあります。
まずは値上げの根拠を確認し、周辺相場を調べるなどして、現実的な落としどころを協議することが重要です。万一、交渉中に従来の家賃の受け取りを拒否された場合は、家賃未納による契約解除を防ぐためにも、必ず供託の手続きを行いましょう。
出典
e-GOV 法令検索 借地借家法
国土交通省 民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)
執筆者 : 浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
