わが家は「生活保護」を受給中ですが、子どもに「大学へ行きたい」と相談されました…保護費から“学費・生活費”は出ますか? 生活保護でも大学へ通えるでしょうか?
生活保護法では、生活保護で負担できる教育費は義務教育までと定められています。そのため、授業料無償化など別の公的支援が用意されている高校とは異なり、生活保護を受給したまま大学に在学することは原則として認められていません。大学進学を希望する場合には、「世帯分離」などの手続きを通じて、保護対象外となったうえで進学する必要があるのです。
本記事では、「世帯分離」について分かりやすく解説し、国が行っている生活保護世帯への進学支援を紹介します。子どもの将来に関わる大切な制度ですので、正しく理解するための一助になれば幸いです。
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
銀行にて12年勤務し、法人および富裕層向けのコンサルティング営業に従事。特に相続対策や遊休地の有効活用に関する提案を多数手がけ、資産管理・税務・不動産戦略に精通。銀行で培った知識と経験を活かし、収益最大化やリスク管理を考慮した土地活用のアドバイスを得意とする。
現在は、2社の経理を担当しながら、これまでの経験をもとに複数の金融メディアでお金に関する情報を発信。実践的かつ分かりやすい情報提供を心がけている。
「世帯分離」とはどういうことか
「世帯分離」とは、親子で同じ家に住んでいても、生活保護の上では別々の世帯として扱うことです。多くの場合、住民票の上でも世帯を分ける手続きをしますが、実際に離れて暮らす必要はありません。
この手続きを行うと、親と子の生活が制度上切り離され、それぞれが独立して生活を管理する形になります。親の生活保護費の算定には子どもの収入が含まれなくなり、双方の生活費が別々に扱われるようになるのです。
世帯分離をした時点で子どもは生活保護の対象外となります。つまり、授業料や生活費、家賃などは原則として本人の自己負担となるのです。そのため、親の生活保護費から学費や生活費を出すことはできません。
進学後の生活費と奨学金制度
では、生活保護を受けていた家庭の子どもは、どうやって大学生活を送るのでしょうか。国は、家庭の経済状況にかかわらず学ぶ機会を得られるよう、支援の仕組みを整えています。
主な支援策として、日本学生支援機構(JASSO)が実施する奨学金制度があります。とくに、世帯分離をして生活保護の対象外となったあとであれば、多くの場合「高等教育の修学支援新制度」の利用を検討できるでしょう。
この制度は、住民税非課税またはそれに準ずる世帯を対象に、授業料や入学金の減免と、給付型奨学金を組み合わせて支給する仕組みです。こうした制度を活用すれば、経済的な理由で進学をあきらめずにすみます。
生活費はアルバイトや奨学金を組み合わせてまかなう必要がありますが、制度を上手に活用することで、進学後は自立した生活を築くことができるのです。
生活保護世帯の高校生への進学支援
高校生の段階では、生活保護世帯に「高校生等奨学給付金」という支援があります。これは授業料以外の教育費として、学用品費や教材費、通学費などを補助する制度で、家庭の負担を減らしながら高校生活を支える役割を担っています。
大学進学を目指す場合は、高校在学中から準備することが大切です。例えば、奨学金制度の情報を集めたり、進学後の生活費を試算したりしておくと、世帯分離後もスムーズに自立を始められるでしょう。
また、福祉事務所に早めに相談することで、世帯分離の時期や必要な手続きを確認できます。さらに、利用可能な支援制度や学校との連携支援についてアドバイスを受けられる場合もあります。
まとめ
生活保護を受けていても、子どもの大学進学は可能です。ただし、進学後は世帯分離を行い、保護の対象外として自立する形になり、学費や生活費は奨学金や支援制度を活用してまかなう必要があります。
家庭の経済状況にかかわらず、学びの機会を広げる制度は整いつつあります。制度を理解し、福祉事務所や学校の進路指導担当に相談しておくことが、希望する進路を実現する第一歩といえるでしょう。
出典
厚生労働省 生活保護制度
文部科学省 高校生等への修学支援
執筆者 : 竹下ひとみ
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
