1人あたり医療費は自治体によって“最大1.4倍以上”の開きがあると聞きました。「全国最安で年間34万円」の埼玉県に住めば“節約”できるってことですか?
しかし、ここでいう「医療費が安い・高い」は、私たちが病院の窓口で支払う金額や、健康保険料そのものを指しているわけではありません。今回は、1人あたり医療費の数字が何を表しているのか、自己負担との関係、地域差が生じる背景を整理します。
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目次
都道府県間の1人あたり医療費格差は「最大1.45倍」
厚生労働省が発表した「令和5(2023)年度 国民医療費の概況~図4 都道府県別にみた国民医療費・人口一人あたり国民医療費」によれば、1人あたりの医療費が最も高い都道府県は「高知県:49万6300円」、最も低い都道府県は「埼玉県:34万2500円」とのことです。
その差は約1.45倍で、西日本のほとんどの自治体が全国平均の38万6700円を上回っており、冬型の気圧配置に喩えて「西高東低」と表現されることもあります。
年間平均が最低の「埼玉県」に住んでも、窓口負担や保険料が下がるわけではない
厚生労働省による同資料の「2 推計方法の概要」を参照すると、国民医療費とは「医療保険制度等による給付、後期高齢者医療制度や公費負担医療制度による給付、これに伴う患者の一部負担等によって支払われた医療費を合算したもの」を指すようです。
重要なのは、この「国民医療費」の多寡によって、住民が病院の窓口で支払う自己負担額が変わる仕組みではないという点です。診療報酬や自己負担割合は全国で原則として共通であり、特定の都道府県に住んでいるからといって、病院代が安くなるわけでも健康保険料が国民医療費の数字だけで決まるわけでもありません。
つまり、1人あたり医療費の高低は、医療費の使われ方や医療体制の違いを示すものであり、地域ごとの医療の提供状況や人口構成などが反映された指標といえます。
「1人あたりの医療費が低い地域」が「高い地域」を支える構造が問題視されている
1人あたりの医療費が「西高東低」となる背景には、地域ごとの医療体制の違いがあると指摘されています。具体的には、次のような要因が医療費の地域差に影響していると考えられています。
・地域の医師数の格差
・医学部の定員数の格差(医師数の差の遠因として)
・人口当たりの病床数の格差
こうした医療資源の偏在は、医療を受ける機会や利用のされ方に違いを生じさせ、その結果として、1人あたり医療費の水準にも地域差をもたらしているとみられています。
このような医療費の地域差を前提に、医療保険制度が全国的な仕組みで運営されていることから、医療費水準の低い地域が、結果として医療費の高い地域を支えているように見えるとの指摘がなされることもあります。
こうした点については、医師偏在や医療提供体制の地域差が制度全体に与える影響として、厚生労働省の検討会などでも議論が続けられています。
まとめ
都道府県ごとに見られる1人あたり医療費の差は、最大で1.4倍以上に及びますが、医療費が低い地域に住めば、病院代や保険料の負担が軽くなるという意味ではありません。
1人あたり医療費の水準は、地域ごとの医療体制や人口構成、医療の利用のされ方などが反映された指標であり、「どの地域が得か・損か」を示すものではありません。医療費の地域差を考える際は、単純に金額の大小で判断するのではなく、その背景や仕組みを踏まえて捉えることが大切といえるでしょう。
出典
厚生労働省 報道発表資料 令和5(2023)年度 国民医療費の概況
厚生労働省 第4回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会:資料1 医師偏在対策について
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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