「出産費用の無償化」が検討されるも、結局“改悪”?「帝王切開は対象外」「一時金のほうが平等」…実際“対象になる”のは? 改悪と言われる理由も確認
混乱が生じている背景には、「何が無償化され、何が対象外なのか」が十分に整理されないまま「完全無償化」という表現だけが先行していることが挙げられます。
本記事では、政府が進めている出産費用無償化について、2025年12月時点で分かっている内容を整理し解説します。また「完全無償化ではない」と言われる理由についても分かりやすく説明するので、ぜひ最後まで読み進めてください。
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
銀行にて12年勤務し、法人および富裕層向けのコンサルティング営業に従事。特に相続対策や遊休地の有効活用に関する提案を多数手がけ、資産管理・税務・不動産戦略に精通。銀行で培った知識と経験を活かし、収益最大化やリスク管理を考慮した土地活用のアドバイスを得意とする。
現在は、2社の経理を担当しながら、これまでの経験をもとに複数の金融メディアでお金に関する情報を発信。実践的かつ分かりやすい情報提供を心がけている。
なぜ出産費用の「無償化」が検討されているのか
これまで政府は、出産にかかる家計負担を軽減するため、出産育児一時金の増額を繰り返してきました。直近では50万円まで引き上げられています。しかし、その一方で、正常分娩にかかる費用も年々上昇しており、一時金を増やしても自己負担が減らないケースも少なくありませんでした。
また、出産費用は地域差が大きく、最も高い東京都では平均費用が60万円を超える一方、最も低い熊本県では39万円ほどにとどまるなど、負担のばらつきが指摘されています。このため、「いくらかかるのか分かりにくい」「一時金で足りるか不安」といった声も根強くありました。
こうした状況から、現金を支給する形ではなく、出産費用そのものを制度的に抑える仕組みとして、正常分娩の無償化が検討されているのです。
出産費用の無償化は「何が対象」になるのか
今回検討されている出産費用の無償化で対象となるのは、正常分娩にかかる費用です。
正常分娩はこれまで健康保険の適用外とされ、出産費用は原則として自己負担となり、その補填として出産育児一時金が支給されてきました。無償化では、この正常分娩部分を公的にカバーし、自己負担をなくす方向で議論が進められています。
一方、帝王切開や吸引分娩などの医療行為は現金給付も検討中と報じられていますが、従来どおり健康保険の対象となり、出産費用の無償化後も原則3割負担が続く見込みで、SNSなどでは「帝王切開にするかは自分で選べないのに」といった声も挙がっています。
また、医療機関によっては、お祝い膳や産後エステ、個室利用といった付加的なサービスを特色として提供しているところもあり、こうした点を重視して出産先を選ぶ人もいます。ただし、これらは医療として必須の費用ではないため、無償化の対象には含めず、制度設計が進められています。
出産一時金と比べると「改悪」に感じる理由
現在は、原則として出産育児一時金50万円が支給されています。この一時金は出産方法にかかわらず一律に支給されるため、出産費用が比較的抑えられた場合には、結果として差額が家計に残るケースもありました。
無償化では、定額の一時金を一律に受け取る仕組みそのものが見直されるため、従来の制度を前提に考えていた場合「以前のほうが負担は少なかった」と感じるケースも出てくる可能性があるのです。
例えば、お祝い膳や産後エステなどのサービスはもともと自己負担ですが、出産育児一時金によって実質的に相殺できていたケースもありました。無償化ではこの一時金の仕組み自体が見直されるため、こうした調整ができなくなり、自己負担分がそのまま家計に影響する可能性があります。
また、出産費用を抑えて一時金の差額を別の用途に充てるつもりだった場合にも、家計の想定が変わることが考えられます。
これが、「改悪ではないか」と言われる理由の1つです。
ただしそもそもの制度としては「出産費用の不安をなくすこと」であり、「現金給付で得をする人を作る」ことではありません。考え方が補助金型から保障型へ近づくと捉えると、理解しやすいでしょう。
まとめ
出産費用の無償化は、「全てが無料になる制度」ではありません。対象となるのは正常分娩であり、帝王切開などの医療行為には引き続き3割負担が生じる見込みです。
現行の出産育児一時金と比べると、受け取り方によっては「改悪」と感じる人が出るのも事実でしょう。しかし、制度の目的は出産時における手出し(自己負担)を減らすことにあります。
言葉の印象だけで判断せず、「どこが対象で、どこが変わらないのか」を整理して理解することが大切です。出産を控える家庭にとって、冷静な情報整理こそが安心につながるはずです。
出典
妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会 議論の整理
執筆者 : 竹下ひとみ
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
