玄関で転んで歩けなくなり、救急車を呼びました。運ばれた病院で「選定療養費」を請求されたのですが、救急車は無料ではないのですか?
もし救急搬送で費用がかかるのであれば、「それなら呼ぶのをやめておこうか」と考えてしまう方もいるかもしれません。
救急車を利用すると、必ず費用がかかるものなのでしょうか。それとも、一定の条件によって扱いが異なるのでしょうか。今回は、「救急車は無料なのか?」という疑問について、その仕組みと考え方をわかりやすく解説していきます。
1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者/中小企業診断士
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救急車は無料ではないの?
初めに押さえておきたいのは、救急車による救急搬送は、現在の日本では原則として無料であるということです。
救急車は、誰でも必要なときに利用できる公的サービスであり、救急車を呼んだこと自体に費用がかかるというわけではありません。
では、今回のケースではなぜ費用が発生したのでしょうか。それは、救急搬送されたあとに受診した医療機関で、「選定療養費」という費用が発生したからです。つまり、今回の請求は「搬送費」ではなく、「医療機関でかかった費用」ということです。
この違いを理解していないと、「救急車が有料になったのでは?」と誤解してしまうおそれがあります。まずは、この点を正しく押さえておきましょう。
選定療養費とは?
ここで、「選定療養費」という言葉が出てきました。これは、保険診療とは別に、患者が医療機関で自己負担する費用の一つです。
もともとは、紹介状を持たずに大きな病院を受診した場合などに、医療機関の役割分担を進める目的で設けられた制度です。つまり、「軽い症状でいきなり大病院に集中しないようにする」ための仕組みとなります。
では、その「選定療養費」が、なぜ救急搬送でも関係してくるのでしょうか。
背景にあるのは、救急医療の現場が抱える課題です。現在、救急車の出動件数は増加傾向にあり、そのなかには緊急性の低い一定数の利用も含まれているとされています。こうした状況は、本当に緊急性の高い患者への対応を遅らせる要因にもなりかねません。
そのため、一部の地域や医療機関では、軽症であったり、緊急性が低かったりすると判断された救急搬送に対して、選定療養費を適用する取り組みが行われています。これは、救急車の適正利用を促すための対応の一つといえます。
請求されるケース・されないケースの違い
では、どのような場合に選定療養費が請求されるのでしょうか。
前提として、救急搬送時に選定療養費が請求されるかどうかは、全国一律のルールではありません。地域や医療機関によって、対応が異なる点に注意が必要です。そのうえで、一般的には次のように考えられています。
・緊急性が高いと判断された場合
・入院や緊急処置が必要とされた場合
・軽症と判断された場合(結果として入院に至らなかった場合など)
・救急搬送の必要性が低かったと判断された場合
また、判断の仕組みも地域によって異なります。「軽症の場合は徴収する」といった基準を明確にしている地域もあれば、統一的なルールを設けず、個別の病院の判断として選定療養費を徴収しているケースもあります。
そのため、同じような状況で救急車を利用した場合でも、地域や搬送先の医療機関によって、費用が発生するかどうかが異なる場合があります。
さらに注意したいのは、結果として軽症だったとしても、その時点では緊急性の判断が難しいケースがあるという点です。例えば、強い痛みや動けない状態であれば、本人としては緊急と感じるのは自然なことです。
こうしたケースとの線引きは簡単ではなく、現在の制度はまだ過渡期にあるともいえます。
おわりに
現在の日本では、救急車の利用は原則として無料です。ただし、救急搬送後の診療においては「選定療養費」という制度があり、緊急性が低い、あるいは軽症と判断された場合には、地域や医療機関によって費用が発生することがあります。
とはいえ、本当に必要な場面で救急車の利用をためらう必要はありません。命や健康に関わるおそれがある場合には、ためらわずに119番通報をすることが大切です。
一方で、救急車は限られた医療資源であり、私たちの税金によって支えられている公共のサービスでもあります。自分や大切な人が本当に必要なときに適切に利用できるよう、必要性を考えて利用するという視点も大切です。
「救急車を呼ぶべきか迷う」という場合には、相談窓口を活用することも有効です。例えば、「救急安心センター(#7119)」では、医療の専門家に電話で相談ができます。
制度の仕組みを正しく理解し、いざというときに適切な判断ができるよう、日頃から意識しておきましょう。
出典
厚生労働省 紹介状を持たずに特定の病院を受診する場合等の「特別の料金」の見直しについて
松阪市 三基幹病院における選定療養費について
茨城県 救急搬送における選定療養費の徴収について
執筆者 : 富澤佳代子
1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者/中小企業診断士
