更新日: 2024.09.05 子育て

高等教育無償化に潜む意外なメッセージとは?

高等教育無償化に潜む意外なメッセージとは?
2020年度から高等教育無償化が始まります。中身は低所得世帯を対象に新しい「給付型奨学金」(日本学生支援機構)と、大学等の「授業料等減免」です。
 
「授業料等減免」の支援内容を見ると、そこには隠れたメッセージを読み解くことができます。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

高等教育無償化とは?

高等教育無償化の中身は、新しい「給付型奨学金」と「授業料等減免」です。選考基準は「家計基準(収入基準・資産基準)と「学力基準」です。
 
なお、国等から確認を受けた大学等しか利用できません。全ての大学等が対象ではない点に留意しましょう。
 
収入基準は、住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯です。年収の目安(4人家族)では378万円以下の世帯が対象になります。
 
収入基準を満たしていても、生徒と生計維持者2人の資産合計額が2000万円以上(生計維持者が1人の場合は1250万円以上)ある場合は対象外です。
 
さらに、学力基準として、5段階評価で3.5以上、または、学修意欲のある生徒(高校が面談やレポートなどで確認)であることが条件です。

「授業料等減免」の支援内容は進路で異なる

これら基準を満たすと、給付型奨学金(返還不要)として、年額約35万円~91万円(住民税非課税世帯の場合)が進学後に支給されます。
 
新しい「給付型奨学金」の対象者は、大学等へ申請することによって、「授業料等減免」を受けることができます。
 
「授業料等減免」の支援内容は進路により異なります。例えば、住民税非課税世帯の場合、進学先が国公立大学であれば、最大、入学金28万円・授業料54万円が減免になります。
 
私立大学であれば、最大で入学金26万円・授業料70万円が減免されます。私立専門学校であれば、入学金16万円・授業料59万円が減免されます。
 
いずれも自宅通学生・自宅外通学生、文系・理系などの違いはありません。
 
住民税非課税世帯に準ずる世帯は、上記の1/3または2/3が支給されます。推薦枠(人数の上限)はありません。
 
授業料等減免の上限額(年額) 住民税非課税世帯

出典:文部科学省の資料をもとに筆者作成

「授業料等減免」でどのくらい学費をカバーできるか

大学と専門学校について、「授業料等減免」でどのくらい学費をカバーできるか見てみましょう。
 
文部科学省の資料によると、国立大学の初年度納入金(標準額)は、入学金約28万円、授業料約54万円(計約82万円)、公立大学の初年度納入金(平成30年度)は入学金約39万円(地域外の入学者)、授業料約54万円(計約93万円)となっています。
 
公立大学の多くは「地元出身者優遇制度」を設けていて、地域内の出身者の入学金は約23万円となっています。
 
私立大学の学費は、学部・学科により大きく異なります。
 
例えば、私大文科系の初年度納入金(平成28年度)は入学金約23万円、授業料約76万円、施設設備費約16万円(計約115万円)となっていますが、私大理科系では、入学金約26万円、授業料約107万円、施設設備費約19万円(計約152万円)となっています。
 
その他、実験実習費などがかかる場合があります。実験実習費などを含んだ総計は、私大文科系約124万円、私大理科系約165万円となっています。
 
私立専門学校の学費も分野・学科によって大きく異なります。初年度納入金の総平均額(平成30年度・東京都)は、入学金約18万円、授業料約69万円、実習費約11万円、設備費約20万円、その他約7万円(計約125万円)となっています。

高等教育無償化に潜む意外なメッセージとは?

「授業料等減免」の対象となるのは入学金と授業料です。施設設備費などは対象になりません。
 
先に見たように、初年度納入金は、国立大学は約82万円、私大文科系は約115万円(実験実習費などを含んだ総計は約124万円)、私大理科系は152万円(実験実習費などを含んだ総計は約165万円)、専門学校は約125万円(東京都)となっています。
 
国立大学の初年度納入金は「授業料等減免」(住民税非課税世帯の場合)でほぼカバーできますが、私大の場合、最も学費の安い文科系では約8割カバーできるものの、理科系では約6割しかカバーできません。専門学校でも平均で約6割しかカバーできません(東京都)。
 
この支援内容から読み取れることは、低所得者世帯の子どもは、国公立大学か私大文科系に行けばよいというメッセージのように感じます。
 
低所得者世帯の子どもは、奨学金を借りた場合や返済ができなくなった場合に経済的に保護者を頼れないので、貸与型奨学金の利用をためらい、進学を諦めてしまうケースが多くあります。
 
そこで国は、経済的な理由で進学を諦めないように、従来の給付型奨学金を拡充し、さらに、授業料等減免を創設したはずです。
 
しかし、実際には、国公立大学や私大文科系以外に進もうとした場合、貸与型奨学金を借りざるをえません。しかも、高等教育無償化では、無利子の第一種奨学金の利用が制限されていますので、有利子の第二種奨学金を借りざるを得ません。
 
美大や音大に進学する場合は、多額の借金を背負うことになり、事実上、進学を断念せざるをえないでしょう。
 
高等教育無償化が、低所得者の子どもでも、学びたいことを経済的な理由で諦めなくてもよいように支援する趣旨であれば、「授業料等減免」を拡充すべきではないでしょうか?
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。

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