更新日: 2024.10.23 その他暮らし
給料は額面と手取り額が違うもの。しかし、こんな費用まで控除される場合もあるの?
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
給料の額面と手取り額は、もちろん違いますが……
給料は、額面と手取り額はもちろん違います。源泉所得税や住民税、年金保険・健康保険・雇用保険などの社会保険料、そのほか会社が天引きする費用項目が控除されるからです。しかし、給料を受け取る人が振込手数料まで負担するという話は、あまり聞いたことがないと思われます。
厚生労働省のサイト(※)では、「賃金については、労働基準法第24条において、(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されています(賃金支払の五原則)。」とあり、(3)は「全額払いの原則」といわれています。
労働基準法第24条の条文は次のようになっていて、例外的に賃金の一部を控除できる場合があると定められています。
例外にはとても厳しい「全額払いの原則」
例外のひとつ目の「法令に別段の定め」は、所得税法(所得税)、厚生年金保険法や健康保険法等(社会保険料)などです。ふたつ目の労使の「書面による協定」は、物品等の購入代金、社宅・寮そのほかの福利厚生施設の利用代金、住宅等融資返済金、組合費などが対象となります。
また、労働者が自由な意思に基づき相殺(控除)に同意している場合は全額払いの原則に違反しているとはいえないとする判例もありますが、自由な意思に基づいていると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要とされています。
さらに、日雇派遣ないし日々職業紹介の就労形態で給料日前に給料を受け取れる「即給サービス」の振込手数料を徴収していたケースを、労働基準法第24条違反とした判決が2018年2月にありました。
この判決では、労働者は会社から即給サービスを利用するには振込手数料が利用者負担となるという文書を渡されて同意していたものの、会社はこのサービスによって現金による賃金支払の事務の負担を免れることができることや、労働者が不安定な雇用に置かれていて不本意ながらこのサービスを利用せざるをえない立場にあり、会社から即給サービスを誘導されて利用したという事情があることで、自由な意思による相殺同意であるとは認められなかったのです。
冒頭のケースはどうでしょうか?
冒頭の知人も、アルバイト紹介サイトで見つけた求人に応募したもので、いわゆる「日雇い派遣」の仕事でした。登録説明会では登録用紙が配布され必要事項を記入して数ヶ所に記名押印するように指示され、そのうち1ヶ所が給料の振込手数料の控除に同意する書面だったようです。
また、その会社の指定銀行以外の口座を指定すると他行振込みになり振込手数料はさらに高くなるとも説明された模様ですが、そうした詳しい内容が語られたのは、記入や記名押印を済ませた登録用紙が回収された後だったそうです。
ある大手人材派遣会社のサイトでは、給与振込みの際に振込手数料を差し引くことは労働基準法第24条の賃金全額払いの原則に違反すること、そして全額払いの原則の例外はあるものの振込手数料の控除は例外には該当しないと断言しています。どうやら知人のケースは、限りなく黒に近いようです。
まとめ
知人のアルバイトは日給7000円程度だそうですが、他行振込みとなると銀行や振込み形態によっては手数料が440円・660円・770円などのケースもありえます。
ゼロ金利や一部マイナス金利の定着で銀行の経営も苦しく、そのシワ寄せは利用者の手数料値上げにも直結しています。決して多額とはいえないアルバイト給料からこのように高い振込手数料を控除されるのは、困りごとといえるでしょう。
アルバイトを紹介するサイトは多数あり、人材派遣会社もたくさんあります。また同じ先で同じ仕事をする派遣案件を複数の人材派遣会社が扱っているケースも少なくありません。給料の振込手数料を負担させるような会社は、そもそも最初から利用しないことが賢明な判断のようですね。
出典:(※)厚生労働省「労働基準行政全般に関するQ&A」内「賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士