新型コロナウイルス感染症の影響で会社を休む。もし、自分が事業主であったなら、助成金の意味も違ってくる!
配信日: 2020.05.02
新型コロナウイルス感染症の影響で会社を休むことになった社員・従業員の方のなかには、収入が減ることを心配している方もいるでしょう。
このような状況に対応する制度として、現在、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」と「雇用調整助成金の特例措置」が設けられています。
社員・従業員にとっては、いずれの制度もお勤めの会社で活用されるかどうか鍵となります。事業主にとっては、この2つの制度のうちどちらを選ぶかという判断を迫られるのではないでしょうか。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
目次
新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金とは
「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」は、子どもが通う小学校などが休校になり、保護者である社員・従業員が子どもの世話のために会社を休む場合に、通常の有給休暇とは別に有給休暇を取得すると、国から事業主に助成金が支給されるというものです。
雇用調整助成金の特例措置とは
一方、「雇用調整助成金の特例措置」は、新型コロナウイルス感染症の影響によりお勤めの会社が社員・従業員に対し休業手当を払い会社を休ませた場合、国から事業主に雇用調整助成金が支給されるものです。
この2つの制度の共通点は、いずれも国による事業主に対する支援ということです。「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」では、社員・従業員への有給休暇の取得が、「雇用調整助成金の特例措置」では、社員・従業員への休業手当の支払いに対し、国がサポートするという内容です。
2つの制度における計算式の違い
「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」では、次の計算式のもと助成金が算出されます。
有給休暇を取得した対象労働者に支払った賃金相当額×10/10
日額に換算した賃金の限度額は8330円です。
これに対し、「雇用調整助成金の特例措置」では、次のような計算式により助成金が算出されます。
雇用調整助成金=休業手当×60%以上×9/10
こちらについても、1人当たりの日額の限度額は8330円となっています。
2つの計算式を見ると、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」では、10/10、つまり、賃金相当額の100%が後で事業主に支給されます。一方で「雇用調整助成金の特例措置」は、9/10の金額、つまり、事後的に事業主に支給される助成金は支払った休業手当の90%となっています。
社員・従業員の雇用をしっかり守りたいと考えている事業主は、前者の制度を活用したいと思うかもしれません。
雇用調整助成金の注意点
しかし、先ほどの「雇用調整助成金の特例措置」における計算式をよく見てみましょう。
雇用調整助成金は、休業手当に60%以上のパーセンテージを掛け、さらに、その金額に9/10を乗じた金額です。助成率だけに注目してしまうと、考え方を間違えてしまう恐れがあります。
休業手当に掛けられるパーセンテージを休業手当支払い率といいますが、労働基準法では、その範囲を60%以上100%以内にすることが定められています。会社に備え付ける就業規則でも、その範囲内で労使合意のもと決定する必要がありますが、休業手当支払い率が60%の会社と100%の会社とでは、社員・従業員に支払う休業手当そのものが大きく異なります。
休業手当支払い率が60%の会社では、社員・従業員に支払われる休業手当は60%掛け、これに対し、100%の会社では、休業手当は100%支払われるという仕組みです。社員・従業員にとっては、休業手当支払い率は100%の方が良い反面、事業主にとっては60%の方が資金繰りを考えるうえで助かるという状況が生まれます。
会社の資金繰りによって活用される制度が異なる
ここで話をもとに戻します。事業主にとって、社員・従業員のために「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を活用すべきか、「雇用調整助成金の特例措置」を活用すべきかが大きな問題になります。
序盤から新型コロナウイルス感染症の影響が甚大に及んでいるといった会社では、まず、これらを活用するよりも、融資を受け、借入金を資金繰りの原資にすることを選択するでしょう。
そして、状況を見ながら、適用できる社員・従業員がいる場合、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」や「雇用調整助成金の特例措置」を活用することになると思います。
一方、新型コロナウイルス感染症の影響がそれほど出ていないといった会社では、直近で資金繰りに苦慮するわけではないため、長い目で経営資金に対する手立てを考えられる余裕があるといえるでしょう。
いずれにせよ、重要なのは経営資金の状況です。
前者の場合、資金的な余裕が不足しているため、状況次第では、休業手当支払い率を60%にするという合意を得たうえで、社員・従業員に休業手当を支払う道を選ぶかもしれません(本来、休業手当の支払い率は、事前に社内で決めておく必要がありますが、特に中小企業などでは就業規則そのものを備え付けていない会社も多いため、雇用調整助成金の特例措置を活用する場合、このタイミングで支払い率を決める必要があります)。
特に十分な経営資金の準備がされていない中小企業では、このような選択に迫られる可能性が高いといえます。
これとは反対に、今すぐ資金的な手当てが必要というわけではない会社では、社員・従業員の雇用をしっかりと守るという意味で、該当する人に対しては「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を活用することを視野入れて従業員に有給休暇を取得させることも検討可能でしょう。
また、休業手当の支払い率を労使合意のうえ100%に決め、十分な休業手当を支払った後で「雇用調整助成金の特例措置」を活用することを選ぶかもしれません。
これら2つの制度を実際に活用するかどうかは、事業主の置かれている経営状況に大きく依存することになります。
まとめ
法律にもとづきさまざまな制度が設計されますが、現状に即した形で実際に活用するとなると、法律だけでは解決できない問題が生じるのも現実です。
本来、会社経営においては、最低限、事業主が毎月のキャッシュフロー(お金の流れ)を把握しておく必要があります。特に中小企業などの小さな会社では、そこまでの知識やスキルが足りていないという実情があります。
一言でまとめてしまえば、つまるところ、経営者次第になります。しかし、日々、一所懸命、会社を切り盛りしている事業主に対し、それらすべての理解を求めるのは酷なことです。
会社でお勤めの方にとっては、事業主のことも含め、自分がどう振舞えばいいかを想像することが大切なことのように思えます。事業主も、社員・従業員も、それぞれが一方的な見方ではなく、双方の立場で状況を判断していく必要があるのが求められているのかもしれません。
出典:
厚生労働省「小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設しました」
厚生労働省「雇用調整助成金」
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)