更新日: 2020.07.17 その他暮らし

「顔写真付き本人確認書類」を持っていない方は要注意。郵便を受け取れないケースとは?

執筆者 : 酒井 乙

「顔写真付き本人確認書類」を持っていない方は要注意。郵便を受け取れないケースとは?
Fさん(女性25歳)は、節約のために現在契約の固定電話の電話プランを、インターネット付きから固定電話単独のプランに変更しました。
 
「早速、接続用の機器をお送りします」コールセンターの担当者からそう言われ、てっきり宅配便で自宅へ届くものと思っていました。
 
すると、代わりに郵便局から一通の通知が届きました。その内容は、「荷物が郵便局に届いています。荷物の受け取りには、顔写真付き本人確認書類が必要です」というものでした。
 
残念ながら、Fさんは運転免許証やマイナンバーカードといった「顔写真付きの本人確認書類」を何も持っていません。結局、送られた機器を受け取ることができず、到着から10日後、電話会社へ送り返されてしまいました。
 
「以前は、健康保険証で受け取れたのに。なぜ、電話会社はやり方を変えてしまったのだろう?」Fさんは納得できません。本記事では、その理由について解説します。
酒井 乙

執筆者:酒井 乙(さかい きのと)

CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。  
 
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。  
 
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。 
 

令和2年4月1日、「犯罪収益移転防止法」が改正された

Fさんは、「電話会社が本人確認方法を変更した」と思い込んでいましたが、実はそうではありません。背景にあるのは、令和2年4月1日施行の「犯罪収益移転防止法」改正です。
 
同法は、平成20年3月に「マネーローンダリング」(犯罪による収益の出所や帰属を隠そうとする行為)の防止を目的として全面施行されたものです。
 
これによって、規制すべき対象(特定事業者)が拡大し、「疑わしい取引」の所轄行政庁への届け出と、取引時における顧客への「本人特定事項」(本人であることの情報)の確認方法などが定められました(※1)。
 
今回の改正では、インターネットなどのオンライン上で完結する本人確認方法が追加になった一方で、主に郵便取引において、本人確認方法がより厳格になっています(※2)。
 
その内の1つが、郵便物を「本人限定受取郵便(特定事項伝達型)」(以下、「特伝型郵便」)で送付する場合です。
 
具体的には、改正前までは本人確認を「顔写真なし」の本人確認書類で済ますことができたのですが、改正後は、「顔写真付き」の本人確認書類に限られることになりました(図1)。
 
その背景には、近年「なりすまし」によって、送付物を不正に受け取るような犯罪が後を絶たないことがあります。
 


 
実は、Fさんが受け取った郵便も、この特伝型郵便でした。

「顔写真付き本人確認書類」がないと、特伝型郵便を受け取ることができない

それでは、本人限定受取郵便とは、どんなサービスなのでしょうか?
 
これはその名のとおり、差出人が送付した郵便物を受け取ることができる人が、原則、名宛人に限定されている郵便で、現在、3つのタイプがあります。
 
この内、特定事項伝達型は、受取時に郵便局員が「顔写真付き本人確認書類」(図2)を確認し、「本人特定事項」を差出人に伝達するのが特徴です(※3)。
 


 
顔写真付きの本人確認書類を提示できれば、郵便物を受け取ることができます。その後、差出人は登録制のホームページから、本人確認書類の名称や生年月日などの「本人確認事項」をタウンロードすることもできるようになっています。

銀行での口座開設や、クレジットカードの申し込み、電話サービスの申込時などに、特伝型郵便が使われることが多い

それでは、具体的にどんな商品やサービスを利用した場合、特伝型郵便が使われるのでしょうか? 主な例は図3のとおりです。
 


 
特伝型郵便が使われる主な取引は、金融機関やクレジットカード会社、電話会社との取引です。これらの取引は、犯罪収益移転防止法の規制対象になっている場合が多く、本人確認をより徹底する必要があるからです。

現状は、制度の改正に「顔写真付き本人確認書類」の普及が追い付いていない

Fさんのように「顔写真付き本人確認書類」を持っていないのに、特伝型郵便で送られることに気づかず、受け取れないケースは少なくないと考えられます。
 
その理由の1つとして、代表的な「顔写真付き本人確認書類」である運転免許証の保有率(日本の全人口における割合)は、運転免許証で74.9%、パスポートは24%、マイナンバーカードに至っては、14.3%にとどまっている事実があります(図4)。
 


 
マネーローンダリングなどの犯罪防止は、日本だけでなく、世界全体での取り組みです。
 
一方で、法律の改正や厳格化が先行し、顔写真付き本人確認書類、特にマイナンバーカードの普及が追い付いていないのが現状です。また、Fさんが混乱したように、サービスを提供する事業者側が顧客に対して、契約時に郵送方法の確認などが徹底しきれていない面もあります。
 
くれぐれも、サービスの契約時には、事業者側に郵送方法を確認するようにしてください。
 
(出典及び注釈)
(※1)警察庁「犯罪収益移転防止法等の概要について―犯罪収益移転防止法の概要」
(※2)金融庁「「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」の公表について」
(※3)日本郵政グループ 2009年3月2日付プレスリリース 「特定事項伝達型本人限定受取郵便の全国実施」
 
以下、図4の出典
運転免許証:内閣府「令和元年版交通安全白書 P108 第1‒5表 運転免許保有者数の推移」(平成30年末現在のデータ)
 
パスポート有効旅券数:統計値を元に、筆者が以下のとおり算出。パスポート有効旅券数÷日本総人口パスポート有効旅券数は、以下のデータを使用。
外務省「旅券統計」(平成31年1月~令和元年12月)
 
日本総人口は、以下のデータを使用
総務省「人口推計」- 2020年(令和2年)5月報
 
マイナンバーカード交付件数:総務省「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について」(令和元年11月1日現在)
 
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。


 

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