「1人10万円」の特別定額給付金の使い道は? アンケート結果にも潜んでいる「合成の誤謬」とは

配信日: 2020.08.09

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「1人10万円」の特別定額給付金の使い道は? アンケート結果にも潜んでいる「合成の誤謬」とは
新型コロナウイルス感染拡大問題への緊急経済対策の一環として、「1人10万円」特別定額給付金の支給手続きが進められています。
 
4月30日の補正予算成立で決まったものですが、窓口となる市区町村によっても支給スピードに差があるようです。
 
この記事が出る頃に、もう入金されていますでしょうか。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

この給付金の使い道を聞いたアンケートの結果は

「所得制限あり・1世帯30万円」から「一律(所得制限なし)・1人10万円」に急転するドタバタがあり、また支給のスピードアップにつながる期待のあった「マイナンバーカードによるオンライン申請」は、かえって窓口に対して混乱や事務負担増をもたらしてしまったようです。
 
コロナ禍で苦しむ家計にとって一定の助けになることが期待される今回の給付金ですが、その使い道についていろいろな機関や会社がアンケート調査を行っています。一例として、ブランド総合研究所とアイブリッジが実施したインターネット調査の結果(※)を見てみましょう。
 
<アンケート概要>
 ◇調査期間     2020年4月25日~4月28日
 ◇調査対象     一般消費者
 ◇回答者       全国450万人の調査モニター
 ◇回収数       1万9029人
<調査結果概要>
 ◇質問
 10万円の「特別定額給付金」が支給された場合に、何に使おうと思いますか
 ◇上位ポイント
   1位 [食費などの生活費] 49.4%
   2位 [貯金、預金] 24.7%
   3位 [マスクや消毒などの感染予防のための費用] 24.2%
   4位 [家賃や公共料金の支払い] 16.3%
   5位 [感染拡大が収まった後の外食やショッピング] 14.3%
 
上記の1位・3位・4位は、まさにコロナ禍のもとでの生活維持に直結したものです。また5位には、外出自粛で我慢してきた外食、ショッピング、そして旅行などを感染拡大が収まった後に楽しもうとする「リベンジ消費」への意識がうかがえます。
 
そして、2位[貯金、預金]も目につきます。「コロナ禍の終息はまだまだ先行き不透明だから、しばらく様子を見よう」といった思いもあってか、すぐには使わないという“使い道”なのです。
 
ほかの機関等でも同じ質問のアンケート調査を行ったところがいろいろありますが、その多くで上位1位と2位は、上記と同じような内容でした。緊急経済対策としての給付金ですが、リベンジ消費のような経済活性化の「攻め」よりも現在の生活維持のための「守り」に使われやすく、またすぐには使わず「貯め」に向かう比率が多い点にも、コロナ禍の影響の大きさや根深さを感じます。
 

「合成の誤謬」とは

ところで、先行き不透明だから取りあえず使わずに貯金することは心情的にも理解できますし、合理的な判断にも見えます。一方で、「使ってもらう」ための給付金が使われない(貯められてしまう)のは、経済活性化や家計支援など緊急経済対策の趣旨に合っていないことも事実です。
 
このように、個人(あるいは一部の集団など) にとって正しい(合理的)と思えることが、社会全体から見ると必ずしも好ましくない結果をもたらすことがあります。経済学で「合成の誤謬(ごびゅう)」と呼ばれる現象です。「誤謬」は誤りやまちがいのことで、「合成」とは個々のものが結びついて一つになることを意味します。
 
個人がおカネを節約して貯蓄に励むと、その人の貯蓄額は増えます。ところがみんなが節約志向になって貯蓄をしていくと、社会全体では消費が減退して、企業の売上も増えず国民総所得が減ってしまうことにつながるのです。
 
企業業績が低迷すれば働く人の所得も増えず、消費はますます停滞します。消費税、所得税、法人税といった基幹の税収も低迷するので政府予算も緊縮化せざるをえず、社会の成長のために使える予算も限られるなど、“負のスパイラル”のような事態にもなりかねません。
 

まとめ

以上は、「今回の特別定額給付金を使わずに貯金すること」が、あるいは一般的に「節約をして貯蓄すること」がけしからんとか間違いだとか指摘するものではありません。
 
消費喚起のためだけならば、貯めることもできる現金ではなく商品券で支給するようなやり方があるかもしれませんが、どんな使い道にも万能ですぐに行き渡らせることができるのは、やはり現金なのでしょう。
 
進歩したIT技術のマイナンバーカードが、いざというときにもっと的確にスピーディーに活用できる形になったらいいのに。あるいは、折角の給付金を心配なく使えるような状況になったらいいのに。そうした「いいのに」を考えさせられた、今回の特別定額給付金です。
 
[出典]
(※)株式会社ブランド総合研究所「特別定額給付金10万円の使い道は?~コロナウイルスに関する消費者調査」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士


 

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