量がこっそり減っているのが「ステルス値上げ」。では、明らかに量を減らして若者のニーズに応えているサービスとは?
配信日: 2020.09.02
一方で、値段(総額)を抑えるために「量」が明らかに減ることには目をつぶり、結果的に「単価」は割高になっているようなサービスが、若者向けに少しブームになっています。それはどんなものなのでしょうか。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
アンケート調査から見える若者世代のニーズ
若者が関心を示しているこのようなサービスの例として、賃貸で家に住む場合の「賃料」(家賃)が挙げられます。賃料は「平方メートルや坪当たりの単価」に「面積」を掛けた額となりますが、家を借りて住もうとする人は、そもそもどんな点を重視するのでしょうか。
宅地建物取引業の業界団体が毎年9月23日(「不動産の日」)に実施しているインターネットアンケートの2019年調査結果(※)によると、次のようなことが分かります。
【アンケート概要】
◇調査期間:2019年9月23日~11月30日
◇調査対象:日本全国の20歳以上
◇有効回答者数:2万2183件
【調査結果概要】
◇質問
「住宅を借りる際のポイントは何ですか」(3つまで選択可)
◇上位ポイント
1位 「家賃」 73.9%
2位 「交通の利便性がよい」 51.1%
3位 「周辺・生活環境がよい」 43.4%
なお「住まいの広さ」は、7位(7.9%)と高くない。
◇年代別に見ると
・「家賃」は20代(87.7%)から60代以上(62.9%)まで、「交通の利便性がよい」は20代(62.0%)から60代以上(49.2%)までとかなり幅があるが、全般的に年代が上がるほどこだわりが低くなっていく。
・一方で「住まいの広さ」は、全年代とも7~8%台の幅に納まっている。
この調査では、20代は特に賃料の総額(が安いこと)が一番気になり、また交通利便性(がよいこと)も気にしていることが分かります。一方で、住まいの広さへのこだわりはあまりないといえます。
「狭小」のメリットは
こうした意識や価値観を商品企画に取り入れた事例として挙げられるのが「シェアハウス」です。居室は専用ながら、玄関、洗面所、トイレ、浴室(シャワールーム)、キッチン、リビングなどは共用です。
専用の住宅に比べて個人のいろいろな生活ペースに制約がある一方で、住民同士の交流やコミュニケーションを評価する人もいます。そして何よりも、同じエリアにあるワンルームマンションやアパートに比べて賃料が安いのです。
そして、もう1つの商品企画事例が「狭小物件」(狭小アパート、狭小ルーム)。シェアハウスと違って専用の部屋の中で生活が完結するワンルームタイプです。
平面的には10平方メートル前後と狭い一方、1フロアの高さを大きく確保してロフト(中2階)や床下収納の“立体的”なスペースである程度リカバリーしています。プライバシーを確保しながら、賃料もある程度安く抑えられるのです。
専用居住形態の(1)通常のワンルームと(2)狭小物件の2つタイプ(築年数は同程度)について、それぞれ(1)20平方メートル(ロフトなし)、(2)10平方メートル(ロフト付き)と仮定し、比較してみましょう。
最寄駅まで徒歩10分以内、駅から都心エリアまで20分程度で到達できるような立地を想定して、例えば月額賃料(1)8.5万円(平方メートル単価4250円)に対して、(2)5.5万円(同単価5500円)といったケースがありえます。この場合、狭さを我慢すれば同じエリアに月額3万円も安く住めるのです。ただし、単価は3割くらい割高になります。
まとめ
シェアハウスの開発分譲事業で急成長した業者が破綻し、購入した投資家に対して不適切な手続きでローンを提供していた金融機関が一定の責任を負った事例は、記憶に新しいものがあります。
また狭小物件でも、急成長した開発分譲業者が同じように不適切ローンへ関与したとの疑惑が持ち上がり、業者が釈明準備に追われる事態が発生しています。こうした業者が賃貸の管理や運用にも関与しているケースでは、業者に万が一のことがあると、入居者にも何らかの影響が発生しないとは断言できません。
【賃料=単価×広さ】です。「広さはある程度犠牲にしても、交通利便性のよい部屋に、賃料を抑えて入居したい」というニーズを実現するには、「単価」が割高であることにはある程度目をつぶり、狭さも我慢しなければなりません。
具体的に入居物件を検討する際には、いろいろな条件と情報を確認しながら慎重に決めていく姿勢が必要でしょう。
[出典]
(※)公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会・公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会「住居の居住志向及び購買等に関する意識調査」(2020年1月)
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士