更新日: 2021.09.16 その他暮らし

「ペーパーレス」は時代の流れか。預金通帳のデジタル化で何が変わるの?

「ペーパーレス」は時代の流れか。預金通帳のデジタル化で何が変わるの?
銀行業界では、低金利やゼロ(一部マイナス)金利が長期常態化して厳しい収益環境が続き、さらにコロナ禍が追い打ちをかけているような状況です。そんな中で、預金通帳をパソコンやスマートフォンで閲覧するペーパーレス化・デジタル化の流れが加速しています。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

 

預金通帳のデジタル化を促す動き

メガバンク各行は2020年の年明け以降に、こうした流れを促す動きを次々と打ち出しています。時系列で大まかに整理してみると、図表1の通りです。
 
【図表1】

預金通帳のデジタル化を促す動き(メガバンク各行)
(1)三菱UFJ銀行 (2020年1月24日 開始)


デジタル通帳に切り換えた普通口座利用者 先着10万人に1000円をプレゼント(その後、先着20万人に拡充。キャンペーン終了)


(2)三井住友銀行 (2020年6月17日 開始)


デジタル通帳に切り換えた普通口座利用者に抽選で5万人に2000円をプレゼント(キャンペーン終了)


(3)みずほ銀行 (2020年8月21日 公表)


・2021年1月18日以降、新規に口座開設する場合、通帳発行手数料1冊1100円(税込)が必要
・同時に、デジタル通帳利用者1万人に1000円が当たるキャンペーンを実施予定

(出典)各行の公表内容等をもとに筆者が取りまとめ
 
「アメ」のようなプレゼントキャンペーンとセットになっている一方で、みずほ銀行での有料化は「ムチ」のようなイメージすらあります。
 
銀行では収益改善のために各種サービスの有料化や手数料値上げが相次いでいますが、通帳発行の有料化はいずれ広範に導入されるかもしれない口座維持手数料(口座をもっていると手数料負担が必要となる)の先駆けのような印象も受けますね。
 

通帳デジタル化の背景とは

では、預金通帳をデジタル化することで銀行にはどんなメリットがあるのでしょうか。その中心は、紙の通帳を発行するためのコストの削減です。
 
紙の預金通帳を開いてみると、表紙か裏表紙の裏面あたりに「印紙税申告納付につき〇〇税務署承認済」という枠囲みの表示が多くの場合に確認できます。
 
預金通帳は、1年以上にわたって使用すると1年区切りで1冊の通帳を作成したものとみなされ印紙税が課税されます。
 
しかし、1冊ごとに管理するのはとても煩雑なため、所轄税務署長の承認を受けると毎年4月1日現在の預金口座の数によって簡便に申告納税する方法が認められ、1年ごとに1口座200円が納税されるのです(信用金庫など特定の金融機関の預金通帳は非課税)。
 
「国税庁統計年報」(平成30年度版)(※1)によれば、この「預金通帳の一定時納付」での納税額は2018年度で約643.5億円です。これに印刷代や諸経費も加えて仮に1冊あたりのコストを600円程度とすると、紙の預金通帳発行のために全体で年間2000億円近い費用と試算されます。
 
紙媒体のために負担するこうした大きなコストを考えると、預金通帳をデジタル化していくことに銀行がやっきになる事情がうかがえます。
 

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通帳発行有料化事例での要チェックポイント

先述のみずほ銀行の通帳発行有料化事例(※2)での要チェックポイントをまとめると、次のようになります。今後、ほかの銀行でも導入される場合に各行一律とはならないとしても、流れのひとつの目安にはなりそうです。
 

一律に有料化されるの?

 ・2021年1月18日以降に新規口座開設する場合のみ、通帳の新規発行と繰越時に1100円(税込み)が必要。
 ・2021年1月17日以前に開設された口座は、手数料がかからない。
 ・通帳発行時や繰越時に70歳以上の人は、手数料がかからない。
 

新制度以前の口座は、ずっと手数料無料なの?

 ・1年間以上記帳取引がないと自動的にデジタル通帳に変更される。(基準日:毎年1月末日、変更時期:毎年3月上旬)
 ・変更された後でも、希望すれば無料で通帳が再発行される。(紙とデジタルの併用はできない)
 

デジタルの通帳は、紙よりも不便にならないの?

 ・最大10年間分の取引明細が確認できるなど利便性は高い。
 ・あわせて、2020年10月より店舗での個人の取引について、印鑑押印、通帳提示、書類記入などをせずにタブレットへの入力で申し込みが完結するサービスを段階的に導入する。
 
銀行窓口やATMに行かなくても、パソコンやスマホでいつでもどこでも残高確認や資金移動・振込みなどが簡単にできる。このように便利でメリットも多いインターネットバンキングの利用率は、どんどん増大しています。
 
そうしたデジタル化進展の中で、紙の通帳に代表される「アナログ」なツールや制度が長い目で見れば姿を消していくのも、時代の流れなのでしょう。
 

まとめ

以前にも触れましたが、銀行はどんどん姿を変えています。店舗のネットワークや自行以外のATMなどの使い勝手、各種手数料などの負担の高低、預金以外のサービスメニューの豊富さやコストの高低など、変化に限りはありません。
 
また、利用する側でも、ニーズや重視したいポイントは、時代や本人のライフステージ・生活スタイル・価値観などによって変わり続けるのが当然です。
 
今の自分にとって使い勝手がよいサービスをそろえている銀行はどこなのか。定期的にチェックを続けて、必要があればためらわずに変更していくことの大切さを改めて考えさせられます。
 
[出典]
(※1)国税庁「国税庁統計年報」(平成30年度版) なお該当箇所は309ページ
(※2)株式会社みずほ銀行「『通帳レス』・『印鑑レス』・『ペーパレス』を軸とした『デジタル・リモートサービス』の拡充および手数料改定について」(2020年8月21日公表)
 
※ 2020/10/19 出典の表記の一部に誤りがあったため、修正いたしました。
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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