「住宅ローン100万円」を“繰り上げ返済”すると、夫の会社から「住宅ローン控除が減る」と連絡が…完済を急ぐと損?「年収600万円」のケースで控除額を試算
本記事では、良かれと思って行った返済で後悔しないよう、繰り上げ返済と住宅ローンの関係性や、損をしないための判断基準について解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
目次
住宅ローン控除と繰り上げ返済の損益分岐点
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、年末時点でのローン残高に応じて所得税や住民税が控除される制度です。一般的に、年末残高の0.7%(入居時期によっては1%)が税金から戻ってきます。
繰り上げ返済を行うと元金が減るため、将来支払うはずだった利息を節約できます。これが「利息軽減効果」です。一方、元金が減れば年末のローン残高も減るため、戻ってくる税金の額も少なくなります。これは「控除額の減少」です。
つまり、繰り上げ返済をして「得をするか、損をするか」は、以下のどちらが大きいかによって決まります。
1. 繰り上げ返済によって減らせる利息額
2. 繰り上げ返済によって減ってしまう控除額
「住宅ローン金利」が「控除率(0.7%または1%)」よりも低い場合、繰り上げ返済をせずに手元に現金を残しておいたほうが、金銭的なメリットは大きくなります。
現在、変動金利を利用している人の多くは、金利が0.3%~0.5%程度です。この場合、控除率のほうが高いケースが多く、あえて繰り上げ返済をしないほうが有利な状況といえます。
【年収600万円】100万円を繰り上げ返済した場合のシミュレーション
具体的な数字を用いて、どのくらい影響があるか見てみましょう。今回は、中高年の会社員で、平均的な収入層を想定し、以下の条件でシミュレーションを行います。
・年収:600万円(所得税・住民税は十分に納めているものとする)
・住宅ローン残高:2000万円
・繰り上げ返済額:100万円(期間短縮型ではなく、返済額軽減型で元金を減らす想定)
・住宅ローン控除率:1%(数年前に購入した物件を想定)
100万円を返済した場合の年間の利息軽減効果は「100万円×0.5%=5000円」です。一方、年末残高が減ることで控除額は「100万円×1%=1万円」減ります。
・利息軽減効果:+5000円
・控除額減少:−1万円
・差引結果:5000円のマイナス(損)
返済を急いだ結果、実質的に損をします。控除期間中は返済を待つのが賢明です。
利息軽減効果は「100万円×1.5%=1万5000円」です。控除額の減少は同じく1万円のため、差引5000円のプラスです。
金利が控除率を上回っていれば、積極的に返済して利息を減らすメリットがあります。自身の「金利」と「控除率」を比べれば、今すぐ返済すべきか判断できるでしょう。
今回はあくまで1年間の損得計算ですが、実際には控除期間全体で考える必要があります。残存期間が長いほど、金利と控除率の差による影響は拡大するため、長期で確認することも大切です。
ライフイベントと手元資金のバランス
損得だけでなく、家計の安全性も考慮しなければなりません。特に中高年世代は、子どもの教育費がかさむ時期です。
手元資金を繰り上げ返済に充てた直後に大学入学金などが必要になり、教育ローンを借りるとなったら本末転倒です。国の教育ローンでも、金利は2.0%~3.0%程度かかります。0.5%程度の住宅ローンを返済するために、高い金利で借り直すのは避けるべきです。
急な病気や収入減のリスクも踏まえ、生活防衛資金(生活費の6ヶ月~1年分)を確保した上で判断しましょう。住宅ローン控除の期間終了後や、金利上昇局面に入ってから検討しても遅くはありません。
金利と控除期間を確認し、最適なタイミングを見極める
繰り上げ返済は借金が減る安心感はありますが、金利が控除率より低い間は待つほうが有利です。まずは自身の金利と控除率を確認してください。教育費など将来の出費に備えて手元資金を残すことも、立派な家計防衛策です。数字上の損得と家計の安心感、両方のバランスを見て決めましょう。
出典
国税庁 No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)
執筆者 : 山口克雄
2級ファイナンシャル・プランニング技能士